合掌造りは釘やかすがいを使わず、屋根の部分の骨格を縄と“ねそ”というマンサクの木をねじったもので結んでいる。屋根の傾斜が大きいのは雪下ろしの作業を軽減し、水はけをよくするためで、屋根裏の空間はかつて養蚕に活用された。気候や地場産業に適した家屋として考えられたのが合掌造りである。

 沼口さんはこの道22年目のベテランだが、「かやは長さや太さがまちまちの天然素材なので、均一に仕上げるのはいまだに難しい」とのこと。屋根が急傾斜から緩やかになる部分は雪がたまってへこみやすいので、ふく時には膨らみを持たせる工夫がある。家ごとに屋根の角度や形が違うので、それぞれに経年変化を想定しなければいけない。沼口さんに最も難しい工程を聞いてみると、破風を形作る作業だという。

「破風は雨風が強く当たるので、かやをきつく取り付けてあります。この作業ができるのはベテランに限られます。うちでは4人しかできません」(沼口さん)。

 ちなみに、屋根のふき替えのスパンは約20年だが、建物自体は200年以上たっても頑丈なままだ。中には400年も前に建てられたものもあるらしい。20年ぶりにかやを外した屋根からは、百何十年前の職人の仕事ぶりが垣間見えた。世界文化遺産の“リフォーム”は、一見の価値あり、だ。(ライター・若林朋子)