なぜなら、集団的自衛権の発動だとして、日本が攻撃されていないのに軍事力を行使することは、法律上は可能になったが、実際に行使した場合、現行条文のままでは、裁判所が違憲という判断をする可能性がかなりあるからだ(司法がまともに機能するという前提だが)。
現に、国会で自民党が呼んだ参考人でさえ集団的自衛権は違憲だと主張したし、憲法学者の9割以上が違憲だとしている集団的自衛権であるから、司法が違憲判断を示す可能性は現実的に存在している。
しかし、実際に自衛隊が出動してから訴訟が起きて、違憲判決が出たら、米国との関係でも大変な問題になる。そんな不安な状態は早急になくしたいと考えるのは極めて自然な考え方だ。
安倍総理は、3日のビデオメッセージで、こう述べた。
<もちろん、9条の平和主義の理念については、未来に向けて、しっかりと堅持していかなければなりません。そこで「9条1項、2項を残しつつ、自衛隊を明文で書き込む」という考え方、これは国民的な議論に値するのだろうと思います>
これは、従来の自民党の改正案とは全く違う。9条に対する国民の愛着が非常に強いことは、各種世論調査に共通した結果だ。ここを正面から否定するような改正は、今は現実的ではない。
そこで、9条1項、2項を残すことにして、そのうえで、「自衛隊を明文で書き込む」ことにしたのだ。
安倍総理は、その理由を次のように説明している。
<私は少なくとも、私たちの世代のうちに、自衛隊の存在を憲法上にしっかりと位置づけ、「自衛隊が違憲かもしれない」などの議論が生まれる余地をなくすべきである、と考えます>
ここまで聞いた人たちは、こう思うのではないか。
「自衛隊は今でも存在するし、これからもあるだろう。それが違憲だと疑われるのはたしかにおかしなことだ。だったら、そんな誤解が生じないように自衛隊のことをはっきり書いた方が良いという安倍さんの考えは、とても自然な考え方だ。今あるものをあることにするというだけだから、何も変わらないはずだよね」
たしかに、安倍総理の発言ぶりは考え抜かれたものだ。9条はそのまま残すから憲法の平和主義は堅持されると説明できる。国防軍と書くと何かが変わるという印象を与えるので、自衛隊のままで行く。それなら、現状と何も変わらないと説明しやすい。
そういう読みである。
●具体的にどう改正するのか?
自民党改正案に比べると、かなり反対を和らげることになりそうな安倍総理の提案だが、ここで注意が必要なのは、「自衛隊を明文で書き込む」と言いながら、「どう書き込むのか」ということについて全く触れられていないことである。