神戸市内で2010年5月から10月にかけて女児5人への強姦事件が起こった。4歳から8歳の女の子を公園の木陰や団地の空き室に連れ込み、服を脱がせてわいせつ行為を繰り返した悪質きわまりないもの。このたび24歳の被告に、懲役25年の求刑に対して、懲役20年の判決が言い渡されたが、ニュースキャスターの辛坊治郎氏はこの量刑に疑問を呈し、「裁判員制度が被害者の重荷になっている」と指摘する。

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 そもそも求刑の「懲役25年」自体、短すぎないか? しかし起訴罪名が「強姦」である場合、法律上、検察官に許された求刑の上限は強姦単独で20年、複数件でも30年。常識で考えて8歳以下の少女を強姦して、被害者に一切身体的な傷を負わさないことなどありえない。当然、起訴罪名は「強姦致傷」であるべきだろう。起訴罪名が「強姦致傷」ならば、最高刑は無期懲役だ。何故、今回の被告はこの罪で起訴されなかったのか?

 裁判員制度は、この制度で裁かれる犯罪を「最高刑が死刑または無期懲役に当たる罪」と規定している。つまり、罪名が「強姦」なら、プロの裁判官による通常裁判になり、「強姦致傷」なら裁判員裁判となる。

 つまり、被害者が加害者に対してより重い刑を求めると、自動的に裁判員裁判が始まってしまうのだ。これは時として、被害者に更なる苦痛を強いることになる。性犯罪の被害者にとって、詳細な事実関係をプロの裁判官にすら知られるのは抵抗があるのに、ましてや裁判員という名の6人(補充裁判員を入れると最大12人)もの一般人に知られることは耐え難い苦痛だろう。その上、裁判所の選定も裁判員の選任も、事件が発生した地域ごとに行われるために、いかに裁判員の口が法律で封じられているといっても「身近な人が事件の全容を知ることになるかもしれない」という不安に怯えざるをえない。

 犯罪を適正に裁くための制度が、犯罪者の罪を不合理に軽くし、被害者に不当な重荷を背負わせる結果を招いている現実は看過できない。制度の早急な手直しが必要だろう。

※週刊朝日 2012年8月31日号