しかし、日銀の考え方は、一般市民のため、あるいは「顧客本位」という視点に立ったものではない。無理なアパート融資を行うと、それが焦げ付いたときに銀行の損失になる。その規模が大きくなると銀行経営に大きな影響が出て、金融システムを不安定化させる恐れがあるという「銀行本位」の視点でしかものを見ていないようなのだ。

 例えば、黒田東彦総裁は2月21日の段階でも、国会答弁で、「郊外物件など一部に空室率の上昇などみられるが、マクロ的な貸家の需給バランスや金融機関のリスク管理に大きな問題が生じているとはみていない」と語っている(日経新聞)。これは、銀行が損をすると困るが、そうでなければどうでもよいという姿勢だ。顧客が大きな損をしても知ったことではないということなのだろう。

 上述した日銀の報告書は、社会問題化すれば、日銀も批判される恐れがあるので、日銀も警告しましたよというアリバイ作りをしただけの可能性が高い。

 銀行に評判の悪いマイナス金利政策もこの問題の原因の一つになっているので、あまり、銀行に厳しく当たるのはためらわれるという事情もあるのだろう。これでは、日銀は共犯者という見方も出てきそうである。

 これに対して、金融庁は、顧客本位の原則に沿って是正を促す方針だという。これは、日銀よりもはるかにまともな対応だ。昨年末から、アパート融資が「顧客本位」の取引になっているのかどうかという視点で検査を行い、建築業者からの紹介手数料の問題をやり玉に挙げたのは正しい。世論に訴えることで、銀行をけん制しようという意図も読み取れる。

 しかし、このままでは、悪徳商法はなくならないだろう。紹介手数料を禁止するか、少なくともその手数料率を顧客に事前に示すことを義務付けることが必要だ。

 また、将来の収支シミュレーションを示す場合には、賃料が10%下落、20%下落、30%下落、空室率10%、20%、30%のケースなどを基本シミュレーションと同じ程度にしっかりと説明させることも義務付けるべきだ。もちろん、金融庁だけでなく、不動産業や建設業を所管する国土交通省とも連携する必要がある。

 単に、指導というようなあいまいなアリバイ作りで済ませることなく、制度的対応を早急に取るべきである。(文/古賀茂明