ご存知の方も多いと思うが、通常のケースでは、財産を現金で持つよりも不動産にした方が相続税の評価額が安くなる。その分相続税は減る。また、銀行からの融資は債務となるため財産額を圧縮できる。さらに、土地の上に賃貸物件があると、それだけで、普通の土地よりもさらに評価額が下がる。したがって、普通の持ち家よりもアパート経営をすると相続税が大きく減る可能性が高いのだ。

 ここまで聞いて、「なるほど、アパート経営は得するんだな」と思った人は、銀行の紹介する建築業者の話を聞くことになる。そこでは、顧客の持っている土地に合わせた、アパート建築プランを含めた詳細な将来の収支計画が示される。相続税の軽減額なども具体的な金額で教えてもらえる。

 「アパート経営を始めるなら、今しかありません。いつ金利が上がるかわかりませんから」などとせかされて、「これはいいことばかりだから、乗った方がいいな」と思って、銀行から借金をして、アパート経営に乗り出した膨大な数の人が日本中にいるのだ。こういう顧客はまさに銀行にとっての「最優良顧客」である。

●アパート経営にはこれから逆風の時代

 しかし、この話には大きな落とし穴がある。それは、提示されたシミュレーションが、現在の貸家の賃料相場が今後長期間にわたって継続することを前提としていることだ。もちろん、これには、市場の需要要因、供給要因双方から見て無理がある。

 日本は、ご存じのとおり、長期的な人口減少時代に入っている。それでも、単身世帯の増加などで、世帯数は全国で見れば今年も増え続けている。それは、住宅需要も減少はしていないということを意味する。

 しかし、この傾向は、2019年ごろから逆転する見通しだ。国立社会保障・人口問題研究所の推計によれば、世帯総数は2010年の5184万世帯から2019年の5307万世帯まで増加するが、それをピークに減少に転じ、2035年には4956万世帯まで減る。地域別にみると、2015年にはすでに15県で減少に転じているが、20年までには34道県、25年までに42道府県で、25年以降は沖縄以外はすべて減少に転じるという予想だ。

 今後は必要な住宅の数が減り続けることになるわけで、これは、アパート経営にとっては、完全な逆風の時代の到来ということを意味する。

 すでに大きな話題になっているとおり、日本中に空き家が増えていて、2013年には、空き家率が13.5%と過去最高を記録。山梨県の17.2%が最も高く,次いで四国4県がいずれも16%台後半となっている。この数字はどんどん増えることが確実だ。ここまでは住宅の需要側から見たリスクだ。

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