その後Webデザイナーの職に就いた山田さんは、2014年に「給料BANK」というWebサイトを開設。かつて自分が調べるのに苦労した、各職業の特徴や給料をファンタジー風のイラストと文章で紹介し始めた。「給料BANK」はやがて月間100万PVの人気サイトへ成長。そのコンテンツを『日本の給料&職業図鑑』として書籍化したのだ。しかし、なぜファンタジー風?

「もともとロールプレイングゲームが好きで、そうした世界のなかで描かれる職業に憧れをもっていました。卓越した剣術で敵をやっつける騎士、不思議な術で仲間をサポートする魔法使い……、自分独自のスキルで自分なりの活躍をする彼らはとてもカッコいい。でも、これは現実世界でも同じだと思うんです。だから、働く人々を“資本主義ワールド”で戦う冒険者に見立てて職業紹介をすることを思いつきました」

 山田さんのお気に入りは「高速道路の料金収受係」だ。地味な仕事に思えるかもしれないが、『日本の給料&職業図鑑』のなかでは、千手観音のようにたくさんの腕を生やし、凄まじい速度でお釣りを渡す人物として描かれる。ものすごく強そうだ。

「料金所スタッフの方々の動きをよく観察すると、素早く、スムーズに支払いを処理するスキルに感動します。まるで腕が何本もあるかのよう。そのイメージを膨らませて、こうしたイラストをつくりました」

 職業ごとのスキルや能力をファンタジー風に強調した紹介は、読んでいて楽しいだけでなく、普段はなかなか気付きづらい職業の魅力を教えてくれる。

「ある意味、自己啓発本のように楽しんでいただけているのかもしれません。お子さんのために購入される方も多いようです。子どもと一緒に読みながら『俺の仕事、カッコいいだろー』と説明するお父さん方もいらっしゃると聞きます」

 こうした間口の広さが、この本が多くの読者を獲得できた要因なのかもしれない。(取材・文/河嶌太郎)

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