淡路島南部の拠点から、撮影したい場所までの往復タクシー運賃相当の料金のみで空撮します――。
兵庫県南あわじ市のタクシー会社、鳴門タクシーが2017年1月から提供する、小型無人機「ドローン」を利用した空撮サービスが注目を集めている。なぜこのようなサービスを始めたのか? 実際どのような依頼が来ているのか? 同社を訪れ、探ってみた。
「もともと、私がドローンに興味があったのですよ。カメラも好きだったので、ドローンで上空から撮影してみると、普段見ているものと違う、臨場感あふれる景色が見られておもしろかった。これで淡路島をPRできないかなと考えました」
鳴門タクシーの社長、野口公良さん(68)が語る。弟の沼田浩孝さん(56)がカメラマンで、動画や静止画の編集、加工が得意だったこともあり、2016年12月初めにドローンを購入、技術講習などを受け、操作方法を学んだ。
ドローンは、空港の周辺や人口密集地など一部の区域を除いた高度150メートル未満の空域なら、国土交通大臣の許可がなくても飛ばすことができる。他にも人や車、建物から一定の距離を取るなどのルールがあるが、住宅密集地がほとんどない淡路島は、ドローンでの撮影に適しているのだという。
16年12月から、同社のフェイスブックページで、ドローンで撮影した360度のVR(バーチャルリアリティー)静止画や動画を公開してみたところ、好評に。17年1月6日にアップした南あわじ市の名所、灘黒岩水仙郷の空撮動画は、2日間でなんと1万3000回以上再生されたという。
その反響の大きさに後押しされるように、サービス化を決めた。本社がある淡路島南部から、中型の往復タクシー運賃相当の実費を支払えば、動画や静止画を撮影する。編集作業が必要な場合や、データ買い取りなどの希望がある場合は、別途5000円から上乗せするが、業者に依頼すると10万円以上かかるケースがあることを考えれば、破格の値段だ。
手探りで始めたサービスだが、マスコミに取り上げられて話題となり、企業や神社、個人などから既に約10件の依頼が寄せられているという。撮影の対象も、しだれ梅など観光名所のほか、住宅や店舗など多岐にわたるそうだ。住宅や店舗などは、立地により下から撮影すると、他の住宅や店舗が入ってしまうこともあるが、上空からだと対象のみをきれいに撮れるメリットがある。
気温が低く、風が強いとドローンの性能に支障が出るため、天候を見ながら依頼に対応している状況だ。野口さんは「撮影した動画を見て淡路島に行きたいと思ってもらえれば、タクシーの利用にもつながる」と利益を度外視してPR効果を期待する。
また、同社にはドローンが好きな運転手もいるため、今後は観光タクシーに小型のドローンを配置し、島の名所などを巡る際に、規制の範囲内で、数メートル上空から風景と一緒に利用客を撮影するサービスも検討しているという。
何ともユニークなサービスだが、実は他の狙いもある。兵庫県と四国を結ぶ淡路島は、南海トラフ地震の被害が想定されている地域だ。野口さんは「災害時に、揺れや津波などによる被害を撮影するためにも役立てたい」と言う。災害では、市役所などが被災する可能性もある。「被害状況を行政やマスコミに提供し、人命救助などに役立てられたらいい」と有事の際も利用する考えだ。
ドローンの空撮サービスは、淡路島南部からタクシーで日帰りできる範囲の観光、宿泊、レジャー施設を想定している。「淡路島北部の明石海峡大橋も、四国の観光名所でも、依頼されればどこでも行く」と野口さん。もちろん、フェイスブックページにも島内の名所を撮影した空撮動画や、360度VR静止画を公開し続けるつもりだ。
鳴門タクシーは他にも、所有する天文台を無料で公開し、口径55センチの移動式反射望遠鏡を用いた出張天体観察会も行うなど、珍しいサービスを展開している。採算にとらわれず、自由な発想ができる会社ならではの取り組みは、今後どうなるのか、注目したい。(ライター・南文枝)