国立がん研究センター中央病院 消化管内科科長 朴成和医師
国立がん研究センター中央病院 消化管内科科長 朴成和医師

 胃がんが死亡者数の上位を占める原因は進行がんの存在だ。進行がんの根治率は依然として低いが、抗がん剤の進化で延命が期待できるようになってきた。

 東京都の三田昭子さん(仮名・53歳)は、肝転移もある進行胃がんで、地元の病院の「手術の適応もない」という検査結果にふさぎこんでいた。

 三田さんの治療を担当することになった国立がん研究センター中央病院消化管内科科長の朴成和医師は当時を振り返る。

「手術ができないと知った際の落ち込みはひどく、これから始まる化学療法に精神的に耐えられるか、心配しながらのスタートでした」

 選ばれた治療はSP療法。毎日、朝夕食後にTS-1という経口の抗がん剤を服薬する。さらに5週間に一度入院し、シスプラチンという抗がん剤を点滴で投与する。

 入院治療後に食欲が落ちるという副作用もあるが、三田さんは数日で治まった。治療から1年以上たった今も、日常生活を送れている。

「がんが小さくなっているためでしょう。最近では体調もよくなり、笑顔もみられます」(朴医師)

 三田さんのようなケースは決して珍しくない。薬物療法が効きにくいとされていた胃がんの領域も、TS-1の開発を契機に状況は変わった。三田さんに実施されたSP療法は延命効果が期待できる一次化学療法の標準治療として、切除不能ながんに使われている。

 また14年9月にはオキサリプラチンも保険の対象となり、シスプラチンの代わりにオキサリプラチンを投与するSOX療法も標準治療の一つとなった。

 SPとSOXの治療効果はほぼ同等だが、シスプラチンに比べてオキサリプラチンは入院を要するような副作用が少ないため、外来通院が可能となる。高頻度に起こる、手足のしびれの副作用に気を付けながら使える薬剤だ。

「私の患者さんがデザイナーで、手がしびれては図面を描けないからと入院を要するSPを選択しました。効果は同等ですから、シスプラチンの入院とオキサリプラチンのしびれと、どちらが受け入れやすいかが選択の基準になります」(同)

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