金沢大学病院 胃腸外科診療科長 伏田幸夫医師
金沢大学病院 胃腸外科診療科長 伏田幸夫医師
この記事の写真をすべて見る
■胃切除後の再建法(ルーワイ法)/十二指腸の切り口は閉じ、小腸と残胃をつなげる(イラスト/今崎和広)
■胃切除後の再建法(ルーワイ法)/十二指腸の切り口は閉じ、小腸と残胃をつなげる(イラスト/今崎和広)

 胃がんは日本人に発生しやすい代表的ながん。早期ならば負担が少なく、「完治」を前提とした手術が行われる。週刊朝日MOOK「新名医の最新治療2017」から詳しく紹介する。

*  *  *

 胃は食道からきた食べ物を消化し、十二指腸に送る重要な臓器だ。がんの発生には食習慣やピロリ菌がかかわるとされ、胃の下半分にできやすい。

 がんは胃袋の内側の粘膜から発生し、徐々に粘膜下層、筋層、漿膜へと深く入り込んでいく。初期の段階では典型的な症状はほとんどない。

「粘膜、粘膜下層にとどまっているものが早期がん、筋層より深く達したものが進行がんです。内視鏡検査の進歩で、日本で見つかる胃がんの約半数は早期がんです」

 こう話す金沢大学病院胃腸外科診療科長の伏田幸夫医師は続ける。

「がん治療で厄介なのは転移です。ただし、早期胃がんならば胃周囲のリンパ節に転移する割合も低く、他臓器への転移もまれです」

 がんが胃粘膜にとどまり、がん細胞が成長しきった分化型ならば、大きさに関係なく内視鏡治療で対応できる。胃切除の必要はない。

 しかし、早期がんでも粘膜下層に達している場合は外科手術が行われる。

「粘膜下層にはリンパ管がいくつもあり、がんが広がっていく危険性があります。そのため胃周囲のリンパ節を含め胃の3分の2を切除します。進行がんの場合は胃から少し離れたリンパ節まで切除します(D2胃切除)」(伏田医師)

 早期がんの5年生存率は95%以上と、ほぼ完治させることができる。ただし、「治るがん」だからこその問題点もある。手術後は胃が小さくなり、食事量が減る、胸やけがするなどの「胃切除後後遺症」に悩む患者が少なくないのだ。

 実は手術で切除したリンパ節を顕微鏡で詳しく調べると、転移があった割合は2割ほどに過ぎない。約8割の人のリンパ節は、万一の懸念から切除していることになる。

 中部地方に住む神田道子さん(仮名・58歳)は2012年、腹痛を訴えて近所の病院で内視鏡検査を受けた。胃の中央部分である体中部大弯の粘膜に陥凹している腫瘍があり、早期胃がんと診断された。粘膜下層にもがんは広がっていたが、早期がんとして内視鏡を使った粘膜下層剥離術(ESD)で治療。切除した組織の断端にはがん細胞は認められなかった。

次のページ