錦織も肌身で感じたラオニッチの「野心」は、並み居る強豪を退けながら、聖地ウィンブルドンの芝を縦横に駆けた。

 時速250kmに迫る超高速サーブは、台頭し始めた20歳の頃から今も変わらぬ、196センチの長身カナダ人最大の武器。その彼が、コーチ就任直後のモヤに真っ先に指摘されたのが、「もっとネットに出てボレーを活用すること」、そして「ボディ(相手の身体の正面)に打つサーブを使っていくこと」。そこにマッケンローの指導が加わり、ネットプレーの頻度と精度はより高まった。

 それらの成果が最も顕著に見られたのが、準決勝のロジャー・フェデラー戦だ。セットカウント2-1とリードされた第4セット。ゲームカウント4-4の場面でラオニッチはブレークの危機に面するが、その度にフェデラーのボディにサーブを打ち込み、ピンチを切り抜けては咆哮をあげた。

 あるいは、第4セット奪取に直結するブレークを奪ったゲームでは、リターンと同時にネットに出て、2本、3本と立てつづけにボレーを叩き込み、勝利への切符を激しく奪い取る。

「以前の彼は、ベースラインで打つことが多かった。だが今はネットプレーが向上した。プレーヤーとして進化している」

 ウィンブルドン7度の優勝を誇るフェデラーは、野心溢れる追随者の成長を認めた。

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