趣旨に賛同したアップルパイの生みの親、中村紀彦さんが「最後の仕事」として、数人の若手職人に、試行錯誤を重ねてたどり着いたレシピを約3カ月 かけて伝授。季節や温度、湿度などその時々の条件に合わせて仕上げる工夫なども指導した。中村さんは「自分が作ってきた味を継承してくれる人がいてありがたい。教えたものを積み重ねて研究していってくれたら職人冥利(みょうり)に尽きる」と喜ぶ。

 由乃由は、こうして完成したアップルパイを、直径約18センチの1ホール(税別3000円)、1日50個限定で販売する。都築さんによると、売り上げは好調で、リピーターも多いという。16年春からは京都市内のカフェでも売り出しているが、アップルパイが復刻したといううわさを聞きつけて訪れる人もいる。「『待っていました』という手紙が届くなど、復刻を喜ぶ声の多さにプロジェクトへの手ごたえを感じた」と話す。

 プロジェクトでは、今後も漬物や和菓子など、地域に根差した食品や伝統食を復刻させていくつもりだ。「復活・伝承を期待する人が多いこと」を基準に、復刻に取り組むものを選ぶという。例えば現在、ガトーひふみのアップルパイ以外の菓子をよみがえらせることも検討している。

 伝統の技を受け継ぐ若手職人は現在、取引先を通じて集めているが、希望者がいれば、面接などを経て受け入れるという。プロジェクトの趣旨を理解し、熱意がある人なら歓迎するそうだ。

 都築さんは「2代、3代と100年続いた漬物屋さんやつくだ煮屋さん、煮豆屋さんなどで、後継者不足に悩むところは多い。あと10年もすれば、現在60代で頑張っているお店の味がどんどん失われていってしまう。そうなる前に、なんとしてもその味をつなげていきたい」と意気込む。まずは伝統的な食品が多い京都から始めて協力者を増やし、うまくいけば、活動を全国に広げていく。

 いまは失われてしまった「もう一度食べたい」あの味に、またたどり着けるかもしれないこのプロジェクト。多くの人が懐かしの味と“再会”できる可能性に期待したい。(ライター・南文枝)

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