自宅に戻った波恵さんに甘えるチャアチャ(写真:高木保明さん提供)
自宅に戻った波恵さんに甘えるチャアチャ(写真:高木保明さん提供)
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 本県玉名市のねこ、チャアチャは、107歳になる波恵おばあちゃんに2年半で800通もの手紙を届けた“伝書ねこ”だ。おばあちゃんとチャアチャの不思議な交流は、朝日新聞デジタルに動画がアップされ大反響を呼び、4月には『伝書ねこ チャアチャ』(朝日新聞出版)というタイトルで書籍化もされた。

 チャアチャとおばあちゃんを取材した、朝日新聞玉名市局長の村上伸一記者に、出会いについて聞いた。

「昨年(2015年)1月、朝日新聞玉名支局を、高木恵子さん(77)と弟の保明さん(66)が訪ねてきました。1931年に台湾の学校が朝日新聞社主催の甲子園の野球大会に初出場し、準優勝した実話に基づく台湾映画『KANO ~1931海の向こうの甲子園~』の広告が、朝日新聞紙面に掲載された数日後でした。恵子さんと保明さんは『うちのおばあちゃんが当時、甲子園からの決勝戦の実況中継を台湾で聞いていたんです』と教えてくれました。それが、当時106歳の高木波恵さんでした。台湾でラジオを聞きながら応援し、今も健在なのは波恵さんぐらいだろうと思い、ぜひ波恵さんに取材をしたいと申し込みました。波恵さんの記憶力は鮮明で、声は力強く、106歳とは思えないような“若さ”でした」

 記事は熊本県内だけに届く地方版のトップ記事になった。そこから「波恵さん物語」とでも呼びたくなるような奇跡のドラマが始まったという。

「波恵さんは朝日新聞の取材を受けたことで、戦前、台湾で小学校の先生をしていた当時のことを思い出し、教え子たちのことが無性になつかしくなったのか、何十年ぶりかに手紙を書きました。その手紙の住所は古いもので、本来なら『宛先不明』で返送されてしまうはずでした。ところが、日本からの分厚い手紙(写真のコピーなども同封したため)を見て『重要な手紙かもしれない』と思った現地の若い郵便局員が、12日かけて現住所を探し出し、本人にちゃんと手紙を届けたのです。これが台湾で美談となり、マスコミが次々に報じて大きな話題となりました。すでに80代、90代の教え子たちが恩師だった波恵さんのことを思い出し、テレビ対話が実現したのです。それが一段落してから、波恵さんとチャアチャの交流を記事にまとめ、動画も撮影して、新聞、デジタル両方で掲載しました」

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