「例えば、知り合いのお母さんたちには『貧困は見えなくとも、母子家庭は周りに多いよね』と話したりしています。そういった母子家庭の親子に子ども食堂の活動を紹介することが、助けになることがあるかもしれない。それから『貧困は見えないけど、周りに同じクラスになりたくないなって子はいない? あのお母さんとは関わりたくないなっていうお母さんはいない?』って聞いたりするんです。学校や社会で『困った人だね』って言われている人は、実はその人自身が、何かで困っていることも多い。そういう人たちを私たちにつないでくれることによって、地域でその親子を見守るっていうことができるんですよね」
実際、厚労省の調査では、子どもがいる現役世帯の貧困率は15.1%で、そのうち半数以上の54.6%がひとり親の世帯だった。ひとり親世帯にこういった地域の活動を知らせるだけでも、いざというときに救いになることはあるかもしれない。
一方で、子ども食堂は多くの人に「貧困」への関心を持たせるきっかけにもなった。実際、栗林さんの身近にいる女性は、こんなふうに考え方を変えた。
「あるお母さんの話なんですが、彼女の家には毎週日曜の20時になると家に遊びにくる子がいて。息子さんの友達なんですが、いつも遅い時間に遊びに来るので『ご飯食べてからおいで』と言って突き返していたそうです。そうしたら、今度はその子がカップラーメンを持ってくるようになって『おばちゃんお湯ちょうだい』と。彼女はこれまで、すごく嫌な顔をして、お湯を入れて渡していたんだそうです。それが、子ども食堂や貧困の話を知ってから、そういう子たちには何か、彼らの自己責任ではない理由があるのかもしれないと思うようになった。彼らを放っておくことが社会的損失になるかもしれないとも、考えるようになった。そのお母さんは『今度その子が来た時には、対応が変わると思う』と話していました」(栗林さん)
子ども食堂の活動そのものが人を助けることもあれば、貧困を知ること、そして貧困が必ずしも自己責任の問題ではないことを知るだけでも、地域のまなざしは変わっていく。そしてそれがひいては、地域で困っている人たちを支えることになっていくかもしれない。
栗林さんは、こども食堂を「困っている人だけでなく、普通の人も気軽に利用できる場所」にしていきたいと話す。
「困っている、困っていないに関わらず多くの子どもたちが、子ども食堂を利用することで『僕は、私は、地域に大事にされて育ったんだ』っていう体験をしてほしい。そうした経験が次の社会をつくっていくのかなと思っています」(栗林さん)
貧困問題をきっかけに注目され始めた子ども食堂。だがこれが、地域で親子を見守る温かい社会をつくるきっかけにもなるかもしれない。(ライター・横田 泉)