「伝説のディーラー」と呼ばれ、投資助言会社「フジマキ・ジャパン」の代表・藤巻健史氏によると、海外では金融機関のトップが外国人ということは少なくない。英大手銀行バークレイズの元CEOは米国人で、ドイツ銀行の共同CEOもインド出身とのことだ。そして藤巻氏がかつて務めていたJPモルガンのトップも自国の人間ではなかったという。「日本の常識」と照らし合せて、藤巻氏はこう指摘する。
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実は、私が勤めていた頃の米金融機関JPモルガンの故ウェザストン会長も米国人ではなく英国人だった。外国人会長の走りと言えるかもしれない。当時の副会長はフランクフルト支店入社のドイツ人とロンドン支店入社のキューバ人だった。
ウェザストン会長はマイケル・J・フォックスが主演した映画「摩天楼はバラ色に」の主人公のモデルだとも言われている。中卒でメッセンジャーボーイとしてロンドン支店に入社したが為替のディーリングで才覚を現し、ついには当時、AAAという最上級の格付けをもらう、世界に冠たる超優良米銀のトップに上り詰めたのだ。さらには英国に帰ってSir(サー)の称号を与えられた。イギリス版豊臣秀吉だ。
英国人とは、身長の低いことをかなりハンディキャップに感じる国民だが、彼は私ほどの身長しかない小柄な男だ。身体的劣等感を持っていただろう点からしても、まさしく小柄だったとされる豊臣秀吉そっくりなのだ。
日本のメガバンクのトップが日本人なのは、日本人の常識だろう。「日本の常識は世界の常識ではない」ことの好例である。また、「銀行のトップは当然日本人だ」という発想自体が、日本の国際化が遅れ、世界経済から取り残されて20年間もGDP(国内総生産)が伸びない原因なのかもしれない。
※週刊朝日 2012年7月27日号