それでもチャンスはあった。第2セットの第1ゲーム、40-0から5ポイント連取でブレークを奪い、懸命に流れを変えた。問題は第2ゲームのサービスゲームだ。最初のポイントでナダルに得意のドロップショットを拾われた錦織は、15-15から改めてドロップショットを放って、これがネット。気の強い一面が裏目に出てブレークバックを許している。錦織はよく気持ちを持ち堪えた。第4ゲームをブレークされて一時は4-1までリードされながら、第7ゲームを奪い返し、第10ゲームではマッチポイントを逃がれて反撃したが、後手に回った態勢を崩すまでには至らなかった。
2時間4分に及んだこの一戦には二つの意味があった。
クレーの王者ナダルを相手に、十分に攻撃的なテニスを展開できたことは改めて自信になったはずだが、メダルの裏返しとして、ナダルの復権が見逃せない。
ナダルはクレーコートのメッカである全仏オープンで、初出場の2005年から10年間で9度の優勝を飾って来た。2014年の優勝後から続いた故障で、昨年はメジャータイトルを手にできず、一時はランキングが10年ぶりに10位まで下降した。この大会で錦織に勝ち、ギジェルモ・ビラスが持っていたクレーコートの優勝記録49に並んだことは、全仏オープンのタイトル奪還に向け大きな収穫だ――実は、グランドスラム4大会の中で錦織に最もチャンスがあると言われているのがその全仏である。バルセロナは、錦織が連覇する前年までナダルが9年のうち8年で優勝していた牙城。ナダル復権がどう進むか……錦織のメジャー挑戦にもたらす、この決勝の影響が興味深い。
様々な意味で惜しい星を逃したが、錦織はゲンのいいバルセロナをステップに、次のマドリードでのマスターズ初優勝をつかんで全仏オープンに臨むという青写真。いいステップを踏めたのは確かだから、そう落ち込むことはないだろう。
文=武田薫