30年以上前に発表された漫画『翔んで埼玉』が話題を集めている。埼玉県をおちょくる作品の内容がネットで盛り上がり、テレビにも取り上げられて復刻版は55万部を超えるヒットになった。作者は『パタリロ!』などで知られる魔夜峰央(まや・みねお)さんだ。今も『パタリロ!』の連載を続ける魔夜さんに、『翔んで埼玉』を中心に話を聞いた。
――復刻版は表紙からして「埼玉県民にはそこらへんの草でも食わせておけ!」という吹き出しが強烈です。今回のヒットについて、どう感じられていますか?
描いた当時のことを覚えていないので、自分でもよくわからないんです。よくまあこんなものを描いたなというのが正直な感想ですね。実は昔の作品どころか、1週間前に描いた作品の内容すら忘れているんですよ。先週描いた『パタリロ!』のサブタイトルを何にしましょうかと編集部に聞かれて、「何を描きましたっけ?」と聞き返すくらい。ましてや30年も前になると、全然覚えていないです。
――今回、改めて読み返されていかがでしたか。
チラっと見て「うわっ」となったんですけど、ちゃんと読み返していないんです。自分の漫画を読む趣味はないですね。これは竹宮恵子先生も仰っていましたが、特に若い頃の自分が描いた作品なんておぞましくて読めたもんじゃないですよ。自分の恥部をさらけ出しているようなもので、それを改めて読むなんてとんでもない!
――『翔んで埼玉』は未完ですが、その後のストーリー展開はどうなるんでしょうか?
うーん、一応考えてはいたんでしょうけど。私の場合、途中でぶつっと切るのはスタイルというか……いろんな作品が未完で終わっているんですよ。そして、「あれはどうなるんだ」「こうなってほしい」という読者を放置プレイしているんです(笑)
――編集長の勧めで故郷の新潟市から引っ越した所沢市では、編集長と編集部長が近所に住んでいて精神的拘留状態にあったそうですね。その中で『翔んで埼玉』が生まれ、その後横浜市に移ったため、そこで続きを描くと自虐ではなく悪口になってしまうから描かないとあとがきで書いていらっしゃいました。続編は期待してはいけませんか?
それは表向きのコメントで、本当のことをいうと描けないんです。いま埼玉をディスってごらんと言われても、私の中にそういう部分がない。ですから、あれは一時的な気の迷いだったんでしょうね。錯乱していたのかもしれない。おっかない看守がふたりいて、独房の片隅で何とか自分を発散したい、ここから逃げ出したい!と、もう半狂乱で描いていたんでしょうね。相当追い詰められていたのではないかと。
――では、もう一度そのぐらい追い詰められるようなことがあれば続編が……