「諸行無常ズ」の麻田さん(右)と津久井さん(左)
「諸行無常ズ」の麻田さん(右)と津久井さん(左)
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ワークショップの舞台となった築地本願寺は国の重要文化財でもある
ワークショップの舞台となった築地本願寺は国の重要文化財でもある
精緻な作品の数々。とても素材が消しゴムだとは思えない
精緻な作品の数々。とても素材が消しゴムだとは思えない
この絵がすべて消しゴムはんこでつくられているとは驚き
この絵がすべて消しゴムはんこでつくられているとは驚き
はんこはちょうど名刺大の大きさ。つぶぞうさんに魂が吹き込まれたようだ
はんこはちょうど名刺大の大きさ。つぶぞうさんに魂が吹き込まれたようだ

 すっ、すっ、すっと、カッターナイフで思い切りよく彫り込んでいく。まるでレリーフのように、次第に形が浮かび上がってくるのは、仏像だ。

「迷いが多いと、断面がきれいにならないんです。彫っているときの心の状態が、作品にも表れるように思います」

 と語るのは、消しゴムはんこ作家の津久井智子さん。

 できあがったはんこに着色をし、ほかのはんこと組み合わせて押していく。みるみるうちに「菩提(ぼだい)樹の前で説法をするお釈迦(しゃか)さま」の絵ができていく。まるで手品のようだ。

 その絵について、消しゴムはんこ職人であり、僧侶の麻田弘潤さんが、やはりはんこを彫りながら、さりげなく話していく。

「木の部分は、消しゴムのカットした余白部分を使って、つくっています。切り抜かれる部分にだって無駄はないんです。そこから新しい絵が生まれていきます」

 消しゴムはんこで、仏様の絵を彫っていく、世にも珍しいユニット「諸行無常ズ」。結成のきっかけは、2011年の東日本大震災だった。

「ボランティアで訪れた仮設住宅で、消しゴムはんこを彫りながら被災者の話を聞いていたんです。するとひとりの被災者の方が、津波にまかれて命からがら逃げてきた壮絶な体験を話してくれました。それは同じ仮設住宅の人々も聞いたことのないものでした。僧侶は、人とコミュニケーションをとる仕事です。人の悩みを聞くためにも、消しゴムはんこは使える、と思いました」(麻田さん)

 その後、麻田さんは、仏教の法話を語りながら、消しゴムはんこをつくるワークショップを開催。これに津久井さんを招いたことから「諸行無常ズ」が生まれた。

 仏の教えを学びながら、参加者たちで消しゴムはんこを楽しく制作していくワークショップは評判を呼び、これまでに30カ所以上のお寺を舞台に開かれている。

 今年3月には初の書籍『消しゴム仏はんこ。』(誠文堂新光社)が発売になった。津久井さんがデザインする優しげで、どこかユニークな表情をもつ仏像たちがいきいきと描かれている。はんこの彫り方や、着色のアドバイスなども豊富だ。麻田さんによる仏像や法話の解説も、温かみのあるはんこがあしらわれており読みやすい。

 発売を記念した、はんこ彫りパフォーマンスショーとワークショップのイベントが、3月12日に築地本願寺で開催された。20~40代の女性を中心に、おおぜいの参加者が集まった。

 説法といっても、ふたりの肩の力の抜けたゆるいトークが中心で、和まされるものだ。笑い声が絶えない。時おり、麻田さんが「いかに人は周りから生かされているか」なんてことを、ふと挟み込んだりする。それが染みてくる。

 ワークショップは毎回お寺で行われている。

「こうしたイベントを、仏教に触れるきっかけにしてもらえれば」(麻田さん)

「お寺のような、独特の静寂のある空間で彫っていると、ふしぎな集中力が湧いてくるように思います。消しゴムはんこは突き詰めていくと、剣道や茶道のような『道』の世界だと思います。お寺という場はちょうど合っています」(津久井さん)

 昨今の「仏教ブーム」を背景にしてか、参加者も増えている。お寺のなかで、心を落ちつけて仏像を彫るうちに、いつもは気づかない自分の内面を発見することもあるという。それははんこの出来にも現れる。「消しゴム仏はんこ」という世界には、ふしぎな安らぎがあるようだ。

 いまやさまざまな形式や分野で親しまれるようになった仏教の世界だが、当サイトの企画「仏像さんのつぶやき」もそのひとつかもしれない。東南アジアや日本の、個性豊かな仏像や地蔵が、日替わりで語りかけてくるコーナーが、意外な人気となっている。

 仏教つながりということで、企画のイメージゆるキャラ「つぶぞうさん」を、麻田さんに彫っていただいた。これがかわいい! トボけながらも、どこかホッとするひと言をつぶやき続ける「つぶぞうさん」の、味わいをまさに捉えた作品なのであった。

 彫るときの心の様子が反映されるという「消しゴム仏はんこ」。「諸行無常ズ」のワークショップに参加して、今度は自分の手でつぶぞうさんをつくってみようと思った。(文・写真/室橋裕和)

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