NHK大河ドラマで内野聖陽が演じている徳川家康が話題になっている。人間味あふれるとの評価がある一方で、天下泰平をなしえた人物が、あれほどふがいない人かとの声もあるようだ。実際、徳川家康という人は、いろいろと不思議な逸話に満ちあふれた人物である。
ところで、江戸幕府の始まりはいつかご存じだろうか? 関ケ原の戦い?大坂の陣?正確には1603年3月24日(旧暦2月12日)に家康が征夷大将軍に任官した時である。江戸幕府を開いた家康は2年ほどで将軍職を秀忠に譲り、大坂夏の陣の翌年(1616年)に死去した。家康の波瀾万丈の人生を考えれば、この後260年あまりも徳川幕府のもとで太平の世が続くこと想像しなかったにちがいない。家康の子孫たちは、徳川幕府の礎を築き、死後神格化された家康を「東照大権現」として大いに敬い続けている。
●「東照大権現」は薬師如来その御利益は?
みなさんは「東照大権現」という名前の由来をご存じだろうか。これは、家康の生母(於大の方のちの伝通院)が、愛知県にある鳳来寺の薬師如来への祈願で家康を懐妊したという逸話からきおり、家康は薬師如来の生まれ変わりといわれている。さらに、「東照大権現」は「東に照る(東方薬師瑠璃光)如来が権(か)りに現れた神」という薬師如来(正式名は薬師瑠璃光如来という)に由来した名前となっている。ということで、東照宮には薬師如来と同じ御利益(病気平癒など)があるといわれている。
一方で、東照宮には極めて徳川家康らしい御利益がある。
写真は、上野東照宮の絵馬であるが「他抜」とかいて「たぬき」と読む。家康はその真意の読めない生き方から「たぬきおやじ」と呼ばれることが多々あったようだが、「他抜」と書けば「他者を抜き去る」につながり、「出世」「合格」「優勝」などの祈願にまさにうってつけとなる。家康が「天下取り」を成し遂げたことももちろん無縁ではない。
●全国各地に存在する東照宮
日光や久能山の他にも全国にはたくさんの東照宮がある。多くは家康に仕えた僧天海や、三代将軍の家光の創建によるものだが、徳川幕府に忠誠を誓う大名たちによる建立も目立つ。たとえば上野東照宮は藤堂高虎、仙台東照宮は仙台藩主・伊達忠宗、広島東照宮は広島藩主・浅野光晟などである。このほか、有名な神社の境内社として祀られていることも多い。
そんな東照宮だが、昨年2015年は、家康の没後400年ということで日光東照宮をはじめ日本各地の東照宮で大祭が行われにぎわった。中でも家康が没後すぐに葬られた久能山東照宮では、命日となる4月17日(旧暦)には徳川宗家、尾張、水戸の各当主も司祭・副司祭として参加し、合計5日にわたる祭礼となった。そして、家康の遺言により没後1年後に改葬された日光東照宮は、今年が鎮座400年となる。サル年の2016年、「三猿」で有名な日光東照宮はまさに今年のベストスポットと言えるかもしれない。ただし、現在日光東照宮は平成の大修理中、荘厳な「陽明門」はテントで覆われている。ちょっと残念だが、一方で修理中に217年ぶりに発見された幻の彩色壁画(松と鶴・梅に錦花鳥)や、もちろん三猿も眠り猫も見ることができる。
新学期が始まり、会社では年度も改まる4月。日光東照宮にささやかな出世や成功をお願いにいくはちょうどいい時季だろう。(文・写真:『東京のパワースポットを歩く』・鈴子)