日本酒から焼酎、洋酒まで、コップ一杯単位から買える「酒販機」を置く店が、最近じわじわと増えている。その発祥である「ニューカヤバ」は、東京、茅場町にある老舗立ち飲み屋だ。
1964年、もともと別の場所でも酒屋と立ち飲み屋を営業していた初代社長が、新たにニューカヤバをオープンするにあたり、それまでたるから出していた酒を客がセルフで注げる形にしようと、機械メーカーとコラボレーションして製作したのが始まりだ。しかし、これら初代酒販機を製造した会社がその数年後に倒産。1964年の開店当初は10台あった酒販機も、1台、また1台と故障し、数を減らした。
それでも1980年代の終わりまでは7台くらいが残っていたというのだからタフな機械だ。現在残っている初代酒販機は焼酎2台とウイスキー1台の3台だけとなった。また、開店当初は酒販機に入れられていたのは日本酒だったが、徐々に日本酒離れが進み、焼酎が入れられるようになっていった。
そしてついに新型酒販機が登場する。ニューカヤバで焼酎の酒販機を見た日本酒メーカー「日本盛」の社員が、株式会社サンシンに「専用の酒販機ができないか」と持ちかける。すでに業務用の酒燗機製造で広いシェアを誇っていたサンシンにとって、難しいリクエストではなかった。こうしてオーダーメードで製造されたのが、現在2台ある日本酒専用の酒販機だ。1990年前後にまず1台目を製造・設置。2014年には2台目の「花の舞」専用機も設置され、評判も上々だ。
だがサンシンとしては、このコイン酒燗機を大量生産し、積極的に売る予定はないという。営業部課長の沼崎さんは話す。
「醸造酒の日本酒の燗(かん)は、焼酎と違ってなかのパイプがカビやすいんです。特に梅雨時期や夏期は雑菌が増えやすいので、しっかりと洗浄してもらえるお店でないと困ります。もともと酒屋さんだったニューカヤバさんは、お酒のことをわかっているのでお引き受けしたところもあります。弊社としては合理性よりも、お客さんが日本酒をおいしく楽しめるお手伝いをさせてもらっているつもりです」