まずはトヨタ自動車を直撃したが、その返答は「回答は差し控える」とにべもない。しぶる担当者を説き伏せて、どうにか得たのが次のコメントだ。
「どの車種でもありとあらゆる想定でのテスト・ドライビングは行っています。ただし、その個別具体的な内容についてはお答えできません」
一方、「頭文字D」の作品すべて読んだという元テスト・ドライバーはこう話す。
「作中に出てくる数々のテクニックに近いことはテスト・ドライビングでどこの社でもやっているだろう」
作中に出てくるテクニックを自動車メーカー各社がテスト・ドライビングで行っていることを暗に認めたが、何度質問しても作中に出てくる数々のテクニックができるかどうか、明言を避けた。車の性能に関わるテストドライビングの具体的内容はどこの自動車メーカーも社外秘というのがその理由だ。
プロのカーレーサーはどうか。引退した人を含めて5人に聞いたが、そのいずれも「危険走行を助長しかねないので何も答えられないし答えない」と回答を拒んだ。だが、そのうちのひとりが“溝落とし”と“ジャンプ”について、「メカニックという観点から」と前置きのうえで重い口を開いた。
「足回り、つまりサスペンションが強化されているという条件であれば、ドライバーの腕次第では理論上可能かもしれない。ただし、早く走ることを目的とするレースの世界では、現実的には不可能。特に『溝落とし』など速いスピードで行えばサスペンションが壊れてしまう。ジャンプはカースタントの領域だ。レーサーが答える範疇ではない」
こうしてカーレーサーのひとりが「頭文字D」の作中で描かれるテクニックは、スピードさえ出さなければ実現可能だという含みを持たせた。もしかすると、カースタントマンなら作中描かれたテクニックを実現できるのかもしれない。そこでカースタントマンに尋ねてみた。
「できます。“イニD”は全部読んでますが、そのほとんどはレース、テスト関係なくプロのドライバーならできるはずです。カースタントマンなら軽くこなせます」
いとも簡単に「頭文字D」で描かれるテクニックを「できる」と言い切った。だがこの後に次の言葉が続く。