映画化されるなど大ヒットした“走り屋”と呼ばれる峠道の公道を車で速く走る若者たちの青春を描いた漫画「頭文字D(イニシャルD)」(しげの秀一作・講談社)。この作品は、群馬県・榛名山がモデルといわれる「秋名山」を舞台とした物語。主人公・藤原拓海が、車好きの親友・武内樹(いつき)や、「公道のカリスマ」と呼ばれる高橋涼介らとの交流を通して、走り屋として覚醒、成長する過程を描いている。
今や“走り屋のバイブル”といわれる「頭文字D」は、華麗なドライビング・テクニックが作品の主軸となっている。ここで気になることがある。はたして、作中に出てくるドライビング・テクニックは本当にできるのか。
たとえば、こんな場面がある。主人公・拓海が駆るトヨタ・スプリンタートレノ(AE86型)が、排気量が大きくパワーも強い日産・スカイラインGT-R(R32型)をレース上で抜き去るシーンだ。
これは本作品の監修者でもある“ドリキン(ドリフト・キングの意味)”の愛称で知られる著名なカーレーサー・土屋圭市氏が、テレビ番組で実演したことがある。ドライバーの腕次第では不可能ではないことは走り屋たちの間では今や常識という。
作中に出てくる数々のテクニックのうち、先行車のドライバーを心理的に揺さぶる目的でヘッドライトを消して走行するという心理戦はまだ想像がつく。
だが、舗装された公道の峠道で急カーブを曲がる際、降雪地域用の路肩の側溝にタイヤを落として素早く曲がる「溝落とし」や、栃木県日光市の高低差が激しいヘアピンカーブで知られる「いろは坂」で車をジャンプさせて早く曲がるといった“ワザ”は、素人ならずとも本当にそんなことができるのかと思わずにはいられない。
そんな率直な疑問を本作に登場するトヨタ・スプリンタートレノの製造元・トヨタ自動車やカーレーサーなど自動車業界関係者、そして走り屋にぶつけてみた。