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出演:能年玲奈、小泉今日子
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 どうすれば小泉今日子のように、齢とともに魅力を増していけるのか―― その秘密を知ることは、現代を生きる私たちにとって大きな意味があるはず。

 日本文学研究者である助川幸逸郎氏が、現代社会における“小泉今日子”の存在を分析し、今の時代を生きる我々がいかにして“小泉今日子”的に生きるべきかを考察する。

※「『あまちゃん』が描いた復興と女たちの“自分探し”」よりつづく

*  *  *

 2013年に放送された、NHK朝の連続ドラマ『あまちゃん』で、登場人物のアキ、ユイ、鈴鹿ひろ美の3人が「ありのまま」で「再生」を遂げることで、物語は大団円を迎えました。そうしたなか、小泉今日子演じる春子だけは、彼女たち3人とは違うポジションに置かれています。

 若き日の春子は、アイドル歌手を目指していました。当時の彼女を、有村架純が演じています。この「有村架純扮する若き春子」は、亡霊のごとく「現在」にたびたび現れます。歌手としての鈴鹿ひろ美の「本物」だったのに、表舞台に立てなかった春子。その「無念」がくすぶり続けていることを、「若き春子」の亡霊は示しています。

 鈴鹿ひろ美が北三陸におもむき、「自分の声」で歌っているさなか、「若き春子」は永遠に姿を消します。このことを、「春子の怨念が鎮められた」と解釈する説があります(注1)。一般的な解釈としては、そのように考えて差し支えないでしょう。

 ただし、次のように見ることもできます。北三陸でのリサイタルの折も、鈴鹿ひろ美がうまく歌えなかったときにそなえて、春子は舞台の袖にいました。鈴鹿ひろ美が音痴を克服した結果、「歌い手としての天野春子」は永遠にお役御免になったのです。鈴鹿ひろ美自身が「本物」になったことで、「幻の本物」だった春子は「本物の幻」となりました。「若き春子」の消失は、そのことも表してはいないでしょうか。

 春子は物語の最後で、アキの父である正宗とよりを戻します。この事実は、春子が家庭の「再生」に成功したことを意味するようにも映ります。しかし、春子にとって正宗は、あまり重い存在ではありません。そのことは、鈴鹿ひろ美の北三陸でのリサイタルでの振るまいからもわかります。

 正宗は、リサイタルの終了まぎわに会場にあらわれます。そして、今回も春子が「代役」をつとめたと信じて疑わないのです。「若き春子」の亡霊の消滅を見とどけるアキと、春子の内面とのかかわりあいは比較にならないレベルです。こういう「わかっていない人物」との「復縁」を、アキやユイや鈴鹿ひろ美の「再生」と等価とは呼べません。

 春子が「元の夫」の他に得たものといえば、芸能事務所の社長の職です。それは彼女にとって「一から始める新しいこと」でした(彼女はアイドルに挫折したあと、専業主婦をしていました)。アキ、ユイ、鈴鹿ひろ美の3人が体現していた「ありのままで再生すること」と、春子の進む方向は異なります。このことは、春子だけが「喪失」――鈴鹿ひろ美の「本物」でなくなること――を経験するのと裏腹です。

 春子は、震災で運転を中止していた北鉄が再開通する日の朝、故郷を後にします。「もう行ぐの? せめて開通式、見て行げばいいいのに」と声をかけるアキ。春子はこれに「やめとく、いろいろ思い出しちゃうから」とこたえます。かつて春子は北鉄が開通したその日に、アイドルを目指して上京したのでした。

 北三陸で「歌」を取り戻した鈴鹿ひろ美に、春子は「吹っ切れた?」と訊ねます。「はい」と鈴鹿がこたえると、「私も」と春子は応じます。こうして「過去」との和解を口にしながら、春子は北鉄の再開通式を避けるのです。

 そして、再開通式の場面には、1984年の開通式のさなか、町を出ようとする「若き春子」を映したショットが挿入されます。北鉄は「復興」したが、「若き春子」の夢は失われて取り返せない――この演出は、そのことを視聴者に印象づけます。

 春子は『あまちゃん』の中で例外的に、本物の「喪失」を体験するキャラクターなのです。現在では、ハードなヤンキーはほぼ絶滅、かわって「マイルドヤンキー」が遍在するようになっています(注2)。春子は、県内最大規模の暴走族を解散に追いやった「伝説のヤンキー」です。アイドルに憧れて上京した――都会で何ものかになろうとした――過去もあります。そんな「真正オールドタイプ」だけに、「ありのまま」では「再生」できなかったと言えるでしょう。

 そういう春子を、小泉今日子ほどしっかり演じられる女優はおそらく現存しません。

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