こうした「自分を外側から見る習性」は、いっぽうではプラスにも働いています。先に述べたように、「お客の目線になりきって自分を観察できること」が小泉今日子の「強み」です。この「強み」は間違いなく、「頭の上の方から客観的に自分を見ていた」経験に根ざしています。
バブル時代に各種の「過激な企画」をもちかけられたとき、冷静に「一度はやってみよう」というスタンスで彼女は応じていました(助川幸逸郎「バブル時代の小泉今日子は過剰に異常だったか」dot.<ドット>朝日新聞出版 参照)。年長者に踊らされているように見えながら、踊らせる側の真意をしっかり見定めている――アイドルとしての小泉今日子のありかたは、「ユミさん」の「着せ替え人形」を務めていた姿が原点です。
家族のなかで常に居場所を探さなければいけなかった太宰と、「ユミさん」の「着せ替え人形」だった小泉今日子。そうなる理由は違っていても、「他人に合わせて自分を演じる子ども」であった点は同じです。小泉今日子が、太宰に共感するのも当然といえます。同時に、ためらわず自己主張をする三島に、彼女がなじめないのも理解できます。
小泉今日子は「ユミさん」のおかげで、精神的負荷のきつい幼年期を過ごしました。しかし、彼女の「強み」である「お客の立場になりきって自分を眺める目線」を獲得できたのは、「ユミさん」のおかげです。その「目線」があるから小泉今日子は、つねに変化して古びずにいられます。
「ユミさん」は、「母親らしい母親」ではなかったかもしれませんが、結果的に小泉今日子を守っています。人間にとって、何が幸福で何が不運かはにわかに定められない――「ユミさん」と小泉今日子の関係を見ると、そのことについて改めて考えさせられます。
※助川幸逸郎氏の連載「小泉今日子になる方法」をまとめた『小泉今日子はなぜいつも旬なのか』(朝日新書)が発売されました
注1 小泉今日子『小泉今日子の半径100m』(宝島社 2006)
注2 小泉今日子『原宿百景』(スイッチ・パブリッシング 2010)
注3 小泉今日子『パンダのan・an』(マガジンハウス 1997)
助川 幸逸郎(すけがわ・こういちろう)
1967年生まれ。著述家・日本文学研究者。横浜市立大学・東海大学などで非常勤講師。文学、映画、ファッションといった多様なコンテンツを、斬新な切り口で相互に関わらせ、前例のないタイプの著述・講演活動を展開している。主な著書に『文学理論の冒険』(東海大学出版会)、『光源氏になってはいけない』『謎の村上春樹』(以上、プレジデント社)など