変わらなければいけない時期に、新境地を開拓できた。傍から見ると、「36歳、試練の時」を、小泉今日子は賢く切り抜けたよう見えます。
それでも当人は、30代後半を突破する困難を感じていたようです。2003年から2006年にかけて、雑誌『InRed』に書かれたエッセイをまとめた「小泉今日子の半径100m」の後書きには、こんな言葉が見えます。
<……連載が始まった頃の私は、そういう自信を喪失している時期でした。結構投げやりな気分で生きてたかも。このままオバちゃんになってしまえ! なんて思ってたもの。だからね、この連載を重ねながらじっくりリハビリをしてたような気がします>
この本の最初の章のタイトルは「30代は微妙で中途半端なお年頃」。ライブでステージに出た瞬間、ファンが一斉に「若~い!」と声をあげたときの戸惑いが語られています。
<褒め言葉なんだと思うよきっと。お客さん達には悪気はない。むしろ無邪気で素直な反応。でもさ、実際ピチピチの若者に「若~い!」って褒めないでしょう? ある年頃にならないと成立しない褒め言葉でしょ? な~んだから微妙な気分にさせられない? こういうのってー。ホイホイ喜んでいいのだろうか?>
30代後半の小泉今日子が、「年を重ねる難しさ」に直面し、迷っていたことは間違いなさそうです。永瀬正敏と離婚したのも2004年、彼女が38歳のときでした。
※「小泉今日子が『トラウマ告白本』を書かなかった理由」につづく
※助川幸逸郎氏の連載「小泉今日子になる方法」をまとめた『小泉今日子はなぜいつも旬なのか』(朝日新書)が発売されました
助川 幸逸郎(すけがわ・こういちろう)
1967年生まれ。著述家・日本文学研究者。横浜市立大学・東海大学などで非常勤講師。文学、映画、ファッションといった多様なコンテンツを、斬新な切り口で相互に関わらせ、前例のないタイプの著述・講演活動を展開している。主な著書に『文学理論の冒険』(東海大学出版会)、『光源氏になってはいけない』『謎の村上春樹』(以上、プレジデント社)など