ただし、松田聖子は華麗な男性遍歴で知られています。子どもの頃から憧れだったという郷ひろみをはじめ、映画で共演した神田正輝、年下の外国人、歯科医師――彼女のお相手は、女性が「こんな人と恋愛をしてみたい」と願うタイプの総カタログです。そのことが「女の子が欲しがるものはすべて手に入れるイメージ」を生み、同性の共感を呼ぶポイントになっています。
中森明菜は、1989年、交際相手だった近藤真彦の自宅で自殺未遂をしました。以後、恋愛や事務所の移籍をめぐってトラブルがつづき、精神的な不調を伝えられるようになります。このことは、多くの男性の「自分が応援してあげないと」という気持ちをかき立て、新しいファンの獲得につながりました。
松田聖子も中森明菜も、「歌手としてのキャラクター」と「どういう恋愛をしているか」を分けて語ることはできません。「芸能人としてのスペック」に還元されない「ドラマチックな私生活」が、彼女たちのカリスマを支えています。
アイドル時代の小泉今日子にも、恋愛の噂は当然ありました。何回かは、写真週刊誌の標的にもされています。しかし、そうした恋愛騒動によって、彼女の歌う曲や演じる役柄は左右されませんでした。交際相手が、小泉今日子の「芸能人としてのイメージ」に影響したのは、中年に達してからです。40歳になった2006年、20歳若い亀梨和也とつきあっていることが報じられました。その結果、「美しく齢を重ねている人」として、いっそう広く認められるようになりました。
※「小泉今日子は『マウンティング』しないから嫌われないのか」につづく
※助川幸逸郎氏の連載「小泉今日子になる方法」をまとめた『小泉今日子はなぜいつも旬なのか』(朝日新書)が発売されました
注1 武部聡志インタビュー(『80年代アイドルカルチャーガイド』洋泉社 2013)
注2 巻頭大特集・斉藤由貴(『BOM』1985年9月号 学習研究社)
助川 幸逸郎(すけがわ・こういちろう)
1967年生まれ。著述家・日本文学研究者。横浜市立大学・東海大学などで非常勤講師。文学、映画、ファッションといった多様なコンテンツを、斬新な切り口で相互に関わらせ、前例のないタイプの著述・講演活動を展開している。主な著書に『文学理論の冒険』(東海大学出版会)、『光源氏になってはいけない』『謎の村上春樹』(以上、プレジデント社)など