2006年に始まった「ちい散歩」(テレビ朝日系)は、地井武男さんが自ら見知らぬ町を歩いて見知らぬ人との会話を楽しむ"ブラリ系"。約6年続いた長寿番組だった。東京都中野区の「尾張屋豆腐店」の主人(54)が振り返る。

「80代の母親に、『冥土の土産に地井さんにちょっと挨拶しろよ』って言ったら、地井さんから『生意気だなあ』って笑いながら怒られちまった。お年寄りを大切にしている人なんだなあと感じたよ」

 地井さんは番組で、豆腐屋があれば必ず訪れ、好物の油揚げか豆腐を食べる。しかし、この豆腐屋では、揚げたてだった海老がんもどき(1個100円)を主人のすすめで食べたという。

「嬉しいことに本当においしかったらしく、カメラマンにも食えよってすすめてくれました。でも、そのカメラマンは桜エビが苦手だったらしくて。地井さんは、いい大人が好き嫌いしてるんじゃないよ!って笑ってました」(豆腐屋の主人)

 ブランコを見つけると必ず遊ぶのも、地井さんの「おきまり」だった。

 中野区の惣菜屋「越後屋」の主人(68)が言う。

「店の前にある公園のブランコが気に入ったみたいでさ。うちにも寄ってくれたんだよ。自腹で五目いなりを二つ買ってくれて。そのまま持つと手が汚れると思って、割りばしを渡そうとしたらさ、バッグの中から"マイ箸"を取り出したんだ。テレビでは放送されなかったけど、思い出に残るシーンだったね」

 撮影中でも、お客さんが来たら、順番を譲っていたのが印象的だったという。

 地井さんは、今年1月末に視野が狭くなる症状を訴え緊急入院。2月から心不全のため活動を休止した。「ちい散歩」は5月4日の放送で終わった。6月29日に他界。70歳だった。

 芸能関係者が言う。

「亡くなる3日前にマネジャーが『復帰は無理かも』とは口にしていたが、病状は深刻ではない様子だったのに......」

「太陽にほえろ!」「北の国から」など有名ドラマの名脇役だった地井さん。町々を歩いた最後の番組では、紛れもなく主役だった。

※週刊朝日 2012年7月13日号