出版不況といわれて久しいが、出版社はもちろん書店も依然苦しい状況に置かれている。書店や図書館に新刊情報などを提供している日本著者販促センターの調べによれば、1999年から今年までで8055軒の書店が姿を消している。そんな苦しい状況に置かれている書店の売り上げを支えているのが、雑誌、コミックそしてビジネス書、特に自己啓発書だという。書籍『7つの習慣』(キングベアー出版)をはじめ、自己啓発書には多くのベストセラーがあり、そのいくつかを実際に読んだことがある人も多いだろう。

 ビジネスマン向けサイトWirelessWire Newsに「キャリアポルノは人生の無駄だ」という記事を書いた谷本真由美氏は、自己啓発書を「キャリアポルノ」という言葉に置き換えている。この言葉は谷本氏が作った造語で、英語圏で使われている「フードポルノ」という言葉が語源。フードポルノとは、「ウェブサイトや雑誌、テレビ、広告などに、美しくて、ゴージャスでおいしそうに見える食べ物や料理するシーンの写真や動画を掲載し、眺めて満足するという行動」のことを指し、自己啓発書を読むという行為はこれに似ていると谷口氏は著書『キャリアポルノは人生の無駄だ』のなかで指摘する。

 谷本氏によれば、キャリアポルノは「下品、字が少ない、余白が多い」という特徴を持つとのこと。余白が多く字が少ないことで早く読み終わることができ、それが読者の自信につながるそうだ。また、目立つフォントを使用し、目をひくようなデザインであるため、店頭で手に取られやすいという。

 「自己啓発書はそもそも字を読むのが嫌いで努力も嫌いな人向けなので、難しい字や言葉は使っていません。(中略)言語のレベルはだいたい中堅の高校に通う高校生くらいのレベルです」(谷本氏)

 しかし、だからと言って書かれている内容すべてが不利益というわけではない。自己啓発書を読む際には、必ず念頭に置かなければならないことがあると谷本氏は語る。

 「著者と自分が違う人間であること、地球上に同じ人は一人もいない、ということを自覚するべきです。(中略)イチローは世界に一人しかいない、と自覚しましょう。私とあの人は違うんだから、できなくて当たり前だ、と最初から思っていれば『本と同じことに取り組んだのに結果が出ない』と落ち込むこともなくなります」

 目の引くデザインやタイトルについ手を伸ばしたくなってしまう自己啓発書だが、誰もが書籍の内容を完璧に実現する事はやはり難しい。谷本氏の指摘に習い、著者と自分を同化せず、必要なエッセンスを上手く抜き出し活用していく事が、自己啓発書との上手なつきあい方なのかもしれない。