一般市民のみならず、一部の国のトップたちの対応も冷静さを欠いているように見える。安倍首相は専門家などの意見を聞くことなく、特段の根拠も示さないままイベントの自粛や小中高の臨時休校を要請。トランプ大統領は11日、英国を除く欧州に14日間滞在した外国人の入国を禁止すると発表し、米国と欧州の両方で大規模な抗議デモが巻き起こっている。

 ただ、日本では10日ごろまでとしていたスポーツや文化イベントの自粛要請を、さらにおおむね10日間延長することを安倍首相が表明し、無観客試合での開催を模索していた選抜高校野球は史上初の中止に追い込まれた。未知のウイルスの感染を防ぐには、人やモノの流れを遮断するしかないのも事実だ。

 WHOのパンデミック宣言翌日の12日、「感染のピークは過ぎた」と発表した中国では、ウイルスの封じ込めに一定程度成功したように見え、発生源の武漢市と湖北省の封鎖を徹底した効果が大きいとされる。一党独裁政治が可能にした、事実上の戒厳令とも呼べる厳しい措置だったが、これが「成功例」と受け止められている面がある。

 トランプ大統領の発表に先立つ9日には、イスラエルのネタニヤフ首相が、対象国を決めず入国を事実上、禁じると発表。感染拡大が激しい国もそうでない国も、互いに入国禁止や渡航制限などの措置を取り合い、世界の分断が進んでいる。

 市民生活への影響も深刻さを増しており、関係者や患者に感染者が出た病院が日本各地で外来診療を休止。イタリアは12日から2週間、全土で薬局と食料品店を除く店舗の閉鎖を決定した。米国では4大プロスポーツのうち、シーズン中だったNBAとNHLがシーズンを中断し、MLBも開幕の延期を発表。自動車レースのF1も13日からの開幕戦を中止した。

 だが、そんな各国の官民を挙げた対策を置き去りにするように、ウイルス拡大は今なおスピードを上げている。

 経済への打撃は計り知れないが、最もわかりやすいのが訪日外国人の極端な減少だろう。京都や東京・銀座は目に見えて活気を失い、飛行機も新幹線もホテルもガラガラだ。

「19年のインバウンド消費は4.8兆円で、中国がその36.8%を占めています。仮に今年の前半でコロナが終息して東京五輪が開催されたとしても、1兆円近い落ち込みは覚悟せざるを得ない。延期された習近平国家主席の来日が秋ごろに可能になれば、それを機に中国人観光客が急激に回復する可能性もありますが、五輪が中止になったり今の状況が来年まで続いたりするようなら影響は計り知れません」(前出の永濱さん)

(編集部・大平誠)

AERA 2020年3月23日号より抜粋