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「おや?」と思って立ち止まる。そしてはじまる旅の迷路――。バックパッカーの神様とも呼ばれる、旅行作家・下川裕治氏が、世界を歩き、食べ、見て、乗って悩む謎解き連載「旅をせんとや生まれけむ」。第21回は「ぱくり店名」について。
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欧米や日本で人気のチェーン店の名をぱくった店名は、海外にでるとときどき見かける。軍事政権時代のミャンマーには多かった。「MAC BURGER」や「KSS FRIED CHICKEN」といった店名の前で、悩んでしまったものだった。
こういったぱくり店名が生まれるには、いくつかの条件がある。政治状況や経済力、そして宗教などの関係で、その種のチェーン店が店を出さないというのが前提。それでいて、その国の人がそのチェーン店の名前を知っているという状況も必要になる。
ミャンマーの「MAC BURGER」を例にとると、国内にマクドナルドはないのだが、ミャンマー人の多くがマクドナルドというハンバーガーチェーンを知っているということだ。マクドナルドが人気で、多くの人が「マック」と呼んでいるということも知っていなくてはならない。
当時のミャンマーは軍事政権の貧しい国だった。マクドナルドが進出する可能性はなかった。しかし国民は欧米社会への強い憧れを抱き、情報には敏感だった。情報の発信源はミャンマーを離れた留学生や難民だったかもしれない。
「MAC BURGER」は繁盛していた。僕も食べてみた。そのハンバーガーの味は、マクドナルドとは似ても似つかぬまずさだったが。
数年ほど前までだったろうか。世界のぱくり店名は、アメリカ生まれのファストフードが多かった。マクドナルドとケンタッキーフライドチキンが双璧だった。
ところがいま、世界でよく目にするのが、偽コンビニというか、偽セブン-イレブンである。東南アジアにはセブン-イレブンが多いが、ライセンス契約や子会社形態ですべて本物。偽ではない。