気になる人物の1週間に着目する「この人の1週間」。今回は歌舞伎俳優の三代目市川右團次さん。戦前に上方で活躍した二代目市川右團次が追求し、師匠である三代目市川猿之助(現・市川猿翁)にも受け継がれた“ケレン味”を未来につなぐ架け橋にと、この春は、9歳の息子と、歌舞伎屈指の人気舞踊『連獅子』を舞った。
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もうすぐ10歳になる息子を都心にある私立小学校へ送っていくことから、右團次さんの一日は始まる。息子である二代目市川右近さんは、3年前に歌舞伎デビュー。今年は3月に、親子で『連獅子』を舞うための稽古に勤しんでいた。
「今は僕が稽古をつけるので厳しくしていますが、稽古や本番で忙しくない時期は、学校の勉強を見てやることもあります」
一週間の大体のスケジュールを聞きたい旨を伝えると、「毎日をどう過ごしているかは、ブログを見るのが一番早い」と言って、スマートフォンを取り出した。一日に何度もブログを更新しているが、学期末の時期は、自然とテストの結果報告に一喜一憂することが多くなる。「そうそう、これが面白かった」と、写真付きで解説してくれたのが、音楽のテストだ。
「三つの曲を聴いてタイトルをつけなさいというテストで、息子の答えはそれぞれ、『ライオン』『ピアニスト』『水族館』。理由の欄にはすべて、『カンで決めました』と書いてある。その感性がいいと思ったので、『パパは脱帽』とコメントしました(笑)」
そうやって、子煩悩な父親の顔を覗かせるが、歌舞伎の世界に足を踏み入れた息子に、どうしても伝えたい魂がある。それは、師匠である三代目市川猿之助さんの創造の理念。果たして、その理念とは具体的にどんなものなのか。話は、右團次さんの子供時代に遡る。
2階にある稽古場から、邦楽の足拍子が家全体を振動させるように響き渡る。大阪の旧市街にある日本家屋。日本舞踊飛鳥流家元の父のもと、内弟子に囲まれながら右團次さんは育った。