がんの3大治療のひとつ、放射線治療の強みは、痛くないうえに、機能と形態が温存できることだ。しかも近年、高精度照射が可能になり、治療成績が向上。手術と同じように根治性が高まったがん種も出てきている。週刊朝日ムック『手術数でわかるいい病院2020』では、日本放射線腫瘍学会の協力のもと、放射線治療の「現在」を取材した。
【図版】IMRTと2次元放射線治療、局所制御率や生存率が高いのは?
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手術、放射線治療、薬物療法をがん3大治療というが、放射線治療はほかに比べて、特徴や実力がよく知られていない。
「放射線の力はせいぜいがん細胞の増殖を抑える程度だと思っている人が少なくありません。放射線治療が手術と同様に根治が期待できる治療法であることを、まず知ってほしいですね」
と話すのは、日本放射線腫瘍学会理事長で、慶応義塾大学病院の茂松直之医師だ。
現在のがん治療は複数の治療法を併用する「集学的治療」が一般的で、放射線を手術の補助として使うことも多い。だがここでは、根治目的の局所治療として、手術と並ぶ選択肢になり得る放射線治療に焦点を当てる。
放射線治療は手術不能の患者にも実施できるのが利点だが、部位による得手不得手もある。前立腺がんと子宮頸がんは、進行期によっては単独で根治させられるし、頭頸部がんの多くや食道がんは、抗がん剤治療と併用する「化学放射線療法」で手術と同等の成績を挙げている。一部の肺がんや肝臓がんでは、高精度な照射法でよい結果を出している。
■治療効果が高く合併症が少ないIMRT
放射線治療の極意は、できるだけ放射線をがんに集中させ、かつ正常組織には当たらないようにすることにある。
「治療成績が向上した第一の理由は、精度の高い治療が可能になったからです。新しい照射法が開発されたことに加えて、同時期に照射装置や検査機器が高機能化した。その両面があって実現しました」(茂松医師)
照射法はまず、1960年代にはすでにおこなわれていた2次元放射線治療が、90年代に3次元原体照射(3D−CRT)に進歩した。