このモントレー・パークの射殺事件は、今年に入って全米で36件目の集団射殺事件で、その直後、カリフォルニア州内のハーフムーン・ベイでは、アジア系の66歳の男性がマッシュルーム畑で、同じ職場の上司含む7人を射殺する事件が起きた。

 どちらもアジア系のシニア層の男性が犯人という点では共通しているが、ハーフムーン・ベイ事件の犯人が警察署の駐車場で逮捕されたのに対し、このモントレー・パーク事件の犯人は、事件後、30キロ以上離れたトーランスの街に逃走し、日系スーパー前の駐車場の車内で自殺しているのが見つかった。多くの日系人や日本人にとっては馴染みの深い場所だけにショックは大きかった。

 トーランス在住で、日系アメリカ人の人権団体「ジャパニーズ・アメリカン・シチズンズ・リーグ」のサイスベイ支部のプレジデントを務めるケント・カワイ氏はこう語る。

「あの辺りはトーランス警察と州警察の捜査網が張り巡らされている捜査ハブなのに、そこにわざわざ犯行直後に逃げてきたというのは、別の犯行目的があったのか。犯人が自殺した今となってはわからないが、何が起きてもおかしくなかった」。

 この72歳の犯人がアジア系だったことと、コロナ禍に米国でアジア系に対する犯罪が急増したこと、この2つに直接の関係はないにせよ、「コロナ禍の3年間の間に社会不安が強まり、特にアジア系の高齢者は外で危害を加えられる危険が増え、外出を控えるなど、社会的孤立の危険が大きかったことは確かだ」とカワイ氏は指摘する。

 そんなアジア系の高齢者たちの子供たちの世代は、アメリカ生まれで英語ネイティブとして育ち、価値観も親の世代とは違うことが多い。仮に親世代が孤立していても、子供世代には深く理解してもらえないことは多いのではないか、とカワイ氏は言う。

 また「もはや過去に犯罪歴がある人間だけを警戒しても銃犯罪は防げない。米国ではオンラインでも簡単に銃が買えてしまう。根本的に銃の取り締まり強化を法律で制定しないことには、同じことが起き、犠牲者が出続ける」とカワイ氏は警告する。

 実際に、このモントレー・パーク事件の最中に、ロサンゼルス郡政府の犯罪者の更生に携わる部署が、ネットの公開オークションで、セミ・オートマティックの銃を売っていたことが報道で発覚した。

 モントレー・パーク事件の犯人が使ったのと同じタイプの銃を、こともあろうに郡政府がオークションで不特定多数の市民に売っていた、という前代未聞の失態が明らかになったのだ。

「オンリー・イン・アメリカ」(こんな馬鹿げたことは、世界中探しても、アメリカでしか起きないよ)という批判が、ロサンゼルス中で溢れていた。

(文・写真/長野美穂)

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長野美穂

長野美穂

ロサンゼルスの米インベスターズ・ビジネス・デイリー紙で記者として約5年間勤務し、自動車、バイオテクノロジー、製薬業界などを担当した後に独立。ミシガン州の地元新聞社で勤務の際には、中絶問題の記事でミシガン・プレス協会のフィーチャー記事賞を受賞。

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