右が福音派のキリスト教会のボランティアのジョン・カーン氏。集団射殺事件の現場に48時間以内に駆けつけるチームの一員だ(写真/長野美穂)
右が福音派のキリスト教会のボランティアのジョン・カーン氏。集団射殺事件の現場に48時間以内に駆けつけるチームの一員だ(写真/長野美穂)

  すると、そこに現れたのが、青い半袖のポロシャツを着てチノパンを履き長い髭を生やした中年の白人男性だ。シャツの胸には「チャプレン(牧師)」という白い文字が刺繍されている。

 ジョン・カーンという名札をつけたその男性は、福音派のキリスト教会の「緊急対応チーム」に所属するボランティアで、米国内で銃での大量殺人事件が起きると、48時間以内にその殺害現場に駆けつけるのが使命だと言う。

 同じ教会のボランティア仲間数人と、数日前にこの現場に到着したそうだ。

「誰かと話したい、気持ちを吐き出したい、という人たちの聞き手として、少しでも受け皿になれれば」と彼は言い、事件翌日から毎日ここに立っていると言った。

「悲劇を利用して福音派のキリスト教信者を増やそうとしているのかと批判されることもあるんだけど、その批判は甘んじて受けるよ。神を信じてもらえれば一番いいから。でも個人的には、銃撃事件でショックを受けて、トラウマを抱える人々の助けになりたいだけなんだ」と彼は言う。

 すると、アジア系の男女がカーン氏に近づき「重症を負って病院に運ばれた9人がどうなったか知ってる?」と聞いた。カーン氏は「さっき病院に見舞いに行った人から聞いたけど、ある男性の首の後ろにはまだ弾丸が埋まっていて、あまりに神経に近すぎて、まだ手術ができないそうだ。州知事も見舞いに訪れたそうだけど」と語った。

 すると隣にいた白人男性が「いや、それが、見舞いに来た州知事に、ベッドで治療を受けている男性が『早くこの病院から出してくれ。莫大な治療費が払えない。明日仕事を休んだらクビになってしまう』と叫んだそうだよ」と語った。

 前述のデビーさんが「銃撃事件の犠牲者のために州から見舞金が出るんじゃないの?」と言うと、白人男性は「いや、上限が7万ドルなんだよ、その見舞金は。ICU病棟に3日入院しただけで7万ドルなんて簡単に超過してしまう。銃弾を取り出す手術すらできないよ、そんな金額じゃ。何とかしてクラウドファンディングで手術費を募らないと、負傷者は破産するよ」と言った。

 カーン氏を含む全員がうなずく。

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今年36件目の集団射殺事件