近隣の街の住民のギルバート・ガルシアさんと妻のデビーさんは、事件の現場となった社交ダンス・スタジオに花を供えに来た(写真/長野美穂)
近隣の街の住民のギルバート・ガルシアさんと妻のデビーさんは、事件の現場となった社交ダンス・スタジオに花を供えに来た(写真/長野美穂)

 ロサンゼルス近郊の街、モントレー・パークの中心部にある社交ダンススタジオ「Star Dance」に行ってみると、赤色の線香から立ち上る煙の匂いが立ちこめていた。

【写真】中国語がメインで、店員も客も英語を話す人はほぼいないモントレー・パークのレストラン

 1月21日の夜、チャイニーズ・ニュー・イヤーの春節のダンスイベントを楽しんでいた男女11人を、アジア系の72歳の男性が射殺するという事件が起きた現場だ。

「タンゴ、ワルツ、チャチャチャ、サルサなどを朝9時から学べます」という看板が掲げられたスタジオの外壁には、数日前に殺害された11人の名前が書かれたボードが並んでいる。

 11人のうちの7人の写真が、白い花で飾られた大きなパネルに飾られている。このスタジオのダンス講師の笑顔の写真を含め、犠牲者の多くは65歳以上だった。

「若い頃からずっと働いて、やっと引退できるシニアの年齢になって、さあこれから人生を楽しもうという時に、なぜいきなり射殺されなくちゃいけないんだ?」

 犠牲者たちの顔写真を見ながら、60代の近隣住民のギルバート・ガルシアさんは、そうつぶやいた。

 ガルシアさんの妻のデビーさんは、持ってきた黄色い花の花束をそっと地面に置き、深くため息をついた。

「私はこの近くの街で育ったから、モントレー・パークは自分の故郷みたいなもの。平和で静かなこの街で、こんな惨劇が起きたことを、未だに受け止めきれない」

 壁には「Ban Semi-automatic Rifles 禁止半自動歩槍」と、英語と中国語で書かれた青い紙が貼られている。

「銃が家族を破壊する」「大量殺人はもうたくさんだ」「銃での殺人が毎日。何度犠牲者の追悼式をやればいいのか。もう耐えられない」というメッセージが、コンクリートの地面にチョークで書かれていた。

 ガルシアさんが80年代にこの地域に住み始めた頃は、素手での殴り合いの喧嘩は時々起きていたが、銃での射殺事件など1度も記憶がなかったという。

「ここは犯罪多発のダウンタウンとは違う。だからこそ当時この地域に家を買おうと決めたし、当時13%と高金利だった住宅ローンも必死で払ってきた。殺された人たちもきっとみんな同じじゃないかと思う」

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長野美穂

長野美穂

ロサンゼルスの米インベスターズ・ビジネス・デイリー紙で記者として約5年間勤務し、自動車、バイオテクノロジー、製薬業界などを担当した後に独立。ミシガン州の地元新聞社で勤務の際には、中絶問題の記事でミシガン・プレス協会のフィーチャー記事賞を受賞。

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街の看板のほとんどが中国語