臨床心理士の資格を持ち、スタンフォード大学医学部でメンタルヘルスの専門家として勤務経験があるジョーングさんは、この犯人の殺人の動機が何か、犯人の精神状態がどうだったのかなどは全くわからないが、と前置きした上で、こう語った。

「アジア系の人々、特に高齢者の場合、何か心に問題を抱えていても、メンタルヘルスの専門家の助けを求めることに強い抵抗がある人が多いことは確か。彼らの母国語でカウンセリングを提供する専門家も地域にいるけれど、英語ネイティブのカウンセラーに比べれば、その数は圧倒的に少ないと言える」

 英語が母国語ではないアジア系高齢者の場合、母国語を話す同胞たちとの気心知れた地域コミュニティーが主な生活基盤となることが多い。

 そのコミュニティー内で何か問題があった時、母国語を話すカウンセラーに問題を打ち明けたりすれば、最悪、周囲に知られてしまうのではと警戒するケースもあるのではないだろうか。

「私たちカウンセリングの専門家には守秘義務があり相談内容が他人に漏れる心配はない。そのことを知ってもらえると安心できると思う。ただ、メンタルヘルスや精神医学などという言葉自体に抵抗がある人が多いのは、わかる。例えば台湾では『心と体のコネクション』という柔らかな表現を使い、身体と心にまつわる相談をしやすい雰囲気作りをするクリニックも増えている傾向がある」とジョーングさんは言う。

 英語ネイティブの臨床心理士の場合、アジア系の高齢者の文化や生活習慣に必ずしも精通していない場合もあり、その点を配慮した対応が望まれると彼女は話す。

「髪のカット料金12ドル」「太平銀行:定期預金8か月で固定金利3.88%」などという看板を見ながら街を歩き、再びスター・ダンススタジオに戻った。

 すると「トランプ2020」のロゴが印刷された赤い帽子を被り、黒い服を着たアジア系の男性が犠牲者の顔写真のパネルに近づき、手にしたスマホで各パネルをなめるように撮影しはじめ、中国語で実況中継しながらライブストリーミングをしていた。

 さらに、白い服を着た女性が犠牲者の顔写真の前で踊り始めた。

 花を供えに来た白人やアジア人や黒人やラテン系などさまざまな人種の人々が、その2人を遠巻きにいぶかしげに無言で眺めていた。

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莫大な治療費が払えない