モントレー・パークの街のレストラン。中国語がメインで、店員も客も英語を話す人はほぼいない(写真/長野美穂)
モントレー・パークの街のレストラン。中国語がメインで、店員も客も英語を話す人はほぼいない(写真/長野美穂)

 ダンススタジオに隣接する店のショーウィンドウを見ると、ZOJIRUSHIのマークがついた炊飯器や「ホットポット」と書かれた調理器具や電気鍋の箱が山のように積まれている。

 人口の65%がアジア系のこの街では、台湾系や中国系の住民が圧倒的に多い。通行人の8割以上がマスクをしている光景もはっとするほど新鮮だ。LAのダウンタウンの路上で、現在、マスクをしている人は少数派だからだ。

 道ばたにホームレスがおらず、街の看板はほとんどが中国語で書かれている。

 街自体が“巨大な中華街”という感じなのだが、LAダウンタウンのチャイナタウンと違うのは、多くの飲食店のガラスドアにクレジットカードのシールが貼られておらず、現金払いが奨励されていることだ。

 あるレストランに入って注文すると、店員の若い女性数人は「英語は話せない」というジェスチャーをして、店の奥から英語の話せる中年女性を連れてきた。彼女にまず聞かれたのは「キャッシュは持っているのか?」だ。

 豚や鶏の料理が大皿に盛られているカウンターにテイクアウト料理を注文しにひっきりなしにやってくる客たち。50人ほどの客が次々と店員に注文するそのやりとりを聞いていても、全員が中国語で話し、店の中で英語を聞くことはなかった。

「生活の全てを中国語で完結することができてしまうのがモントレー・パークの特徴。私の友人のおばあさんは一言も英語を話さずに何の問題もなく生涯ずっとあの街で生活していた」と語るのは、すぐ隣の町アルハンブラに6年間住んだ経験がある台湾出身のクリスティーン・ジョーングさんだ。

 今回の射殺事件の犯人のアジア系の72歳の男性は、このダンススタジオでダンスを教えていた過去があり、離婚した妻ともこのダンススタジオで出会ったと報道されている。

「ダンスのステップを間違えると彼に激怒されることがあった」とこの元妻はメディアの取材に話している。

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