五輪延期が発表された翌日、小池百合子東京都知事は記者会見を開き、「オーバーシュート」「感染爆発」「重大局面」と強調し、週末の外出の自粛を要請した。直後、都内では食料品買い占めなどのパニックが始まった。AERA2020年4月6日号から。
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「オーバーシュート(患者の爆発的急増)を防ぐためには、都民のみなさまのご協力が何よりも重要」
「このままの推移が続けば、ロックダウン(都市の封鎖)を招いてしまう」
3月25日午後8時すぎ、小池百合子東京都知事は記者会見し、強い印象のカタカナ言葉で感染拡大に危機感をあらわにした。
この日、都内の感染者が過去最多の41人に上った。この中には、台東区の永寿総合病院で院内感染したとみられる11人を含むほか、感染経路が追えなかった人たちも10人以上いた。
都民に対しては、平日は可能なら自宅で働くことを求め、週末の不要不急の外出を自粛するようにも要請した。
街の反応も早かった。会見の直後、東京・中目黒のスーパーは多くの客で混み合っていた。缶詰、即席ラーメン、冷凍食品。客が次々と手を伸ばし、レジには長い列ができた。
仕事帰りだという50代の男性は、8千円分以上の食料を買い込み、こう話した。
「小池知事の要請があったので、何日かは自宅にこもるつもりです。食べ物はまだこのスーパーにはありましたが、ロックダウンが本当にあれば、絶対に食べ物の奪い合いが始まりますよ。そうならないことを願ってはいますが」
小池知事が言及した「オーバーシュート」は、3月19日にも出ていたキーワードだった。政府の専門家会議の後、記者会見で副座長の尾身茂・地域医療機能推進機構理事長はこう述べていた。
「我々が最も重要だと思っていることは、本感染症は気がつかないうちに市中に感染が広がり、ある日突然爆発的に患者が急増する、いわゆる『オーバーシュート』が起こり得ることだと思います。こうしたことが起こると、医療供給体制に過剰な負担がかかり、適切な医療の提供ができなくなります」
それまで専門家会議は、「爆発的な感染拡大には進んでおらず、一定程度、持ちこたえている」としていた。それが、突如として、「オーバーシュート」に言及したのだ。
従来の発言からの一貫性が感じられなかったからか、尾身氏の発言はそこまで響かなかったようだ。20日以降の3連休では、咲き始めた桜や暖かな気候に誘われ、多くの人たちが街へ繰り出した。