投資助言会社「フジマキ・ジャパン」の代表を務める藤巻健史氏は、かねてより「円高は、日本経済の諸悪の根源」であり「是正を図らねばならない」という持論を唱えている。藤巻氏はこの持論の根拠について、半導体産業が韓国勢に敗北したことを引き合いにだし、次のように説明している。
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米半導体大手マイクロン・テクノロジーが、会社更生手続き中のエルピーダメモリの事実上の買収に向けて同社と交渉している。日本勢が世界の7割のシェアを握ったDRAM(半導体の一種)市場から国内メーカーが一社もなくなってしまったのだ。韓国勢が世界市場を席巻している。
韓国との安値競争に負けたとする分析が一般的だが、エルピーダメモリはなぜ負けたのか。
経営者の能力が劣っていたのか? 日本人労働者が怠け者なのか? 日本人技術者の能力不足か? 経営者、技術者に革新的な発想が欠けていたのか?
韓国企業と日本企業が、つばぜり合いをした結果、韓国企業のほうが数として日本企業よりも多く生き延びたというのなら、そのような分析にも耳を貸そう。しかし、そうではない。日本企業は一社も生き残れず完敗したのだ。
これは多くの識者が述べる枝葉末節的な理由ではなく、何か根本的な理由があったはずだ。同じ100メートルという距離で競走して日本人全員が韓国人に著しく負けるのなら、日本人は韓国人に比べてよほど運動能力が劣っていることになる。
しかし、今回は、そうではなかった。100メートル競走といいながら、実は日本人だけが150メートル走らされていたようなもの。どう戦っても日本人が勝てるはずがない。
日本政府がすべきことは、個別企業が50メートルも長く走るような「不利な条件」でも戦うべく資金援助をすることではなく、不利な条件自体をなくすこと。あらゆる努力はそこに集中すべきだ。もちろん、不利な条件とは円高のことである。
日本の国力という実力が1で「落第」なのに、通信簿(為替)に5という優秀評価がついている。このようなギャップがある以上、為替は動かせる。それがマーケットで実際に売買をしていた私の長年の見立てだ。
※週刊朝日 2012年6月8日号