親子が発達障害の家庭は、家族関係や学校など多くの困難を抱えている。社会全体として、どう向き合い支援するべきか。AERA2020年4月13日号から。
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東京都在住の自営業の女性(44)の家は、いつも2台のテレビがついている。ASDとADHD傾向のある夫は、2番組を同時に見ないと気が済まない。
小1の娘には同じくASDとADHDの重複傾向がある。睡眠障害が出やすいため、母としては生活リズムを崩さず早めに寝かせてあげたい。だが、夫は食事中も2台テレビをつけるのをやめようとしない。娘も気になってなかなか食べ終わらず、宿題も寝る時間も遅くなる。
「夫は娘をかわいがってはいるのですが、どうしても自分のこだわりを優先させてしまう。学校の宿題で娘が困っていても、相手の気持ちを想像するのが苦手な夫は、『なぜできないんだ』と怒るばかりで、ケンカになってしまいます」
女性は常に夫と娘の間で板挟みとなり、4年ほど前からカウンセリングに通っている。
どんぐり発達クリニック院長の宮尾益知医師は、この母親のようなケースを数多く見てきた。
「特に子どもと父親にASDの傾向があり、母親に鬱(うつ)的な様子が見られる場合、家族機能の不全が起こりやすい。母親に生活力があり、どうにもならなければ別れるという選択肢が持てればいいのですが、そうでない場合はより問題が深刻化しやすい」(宮尾医師)
そこで同医師らが始めたのが、「家族療法」だ。この療法は子どもだけでなく、親やきょうだいを含め、家族全体の関係性に働きかけるのが特徴だ。両親それぞれを個別に面談したほか、父親が集まる会も実施。「自分は困っていないので問題ない」と考えがちな父親に、他の家庭の事例を知ってもらうことで自覚を促し、少しずつ行動を変えてもらった。取り組みを継続するうち、子どもだけに対処していた時より明らかに状態が良くなったという。
家族療法で大事なのは「原因探しをしない」ことだ。例えば、ADHDの子どもを父親がしょっちゅう叱りつけ、母親も右往左往している場合、一般的な対応では「父親の無理解」を原因と考え、そこだけを解決しようとする。しかし、父親ひとりを責めてしまうと対立関係が生まれ適切な行動をとってもらえないことが多い。