気になる人物の1週間に着目する「この人の1週間」。今回は歴史ドラマから推理ものまで、多くの代表作を持ちながら、脇役でも重厚な存在感を発揮する俳優・上川隆也さん。この春は、手塚治虫の名作を舞台化した「新 陽だまりの樹」で、幕末の世に正義を貫く武士を演じる。
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新しい舞台に挑戦する理由について、「粉飾することなく申し上げるならば」と前置きしてから、「好奇心です」と、さらりと答えた。一つひとつの質問の意味を自分の中で咀嚼し、最初に結論を述べてから、それについての説明を加える。その語り口は、口語というよりもどこか文語的だ。ICレコーダーに録音された上川さんの発言を文字起こしすると、発言そのものが、とても丁寧で美しい日本語になっていた。
幕末を舞台に、武士の伊武谷万二郎と蘭方医の手塚良庵との友情を描いた手塚治虫の長編漫画「陽だまりの樹」は、これまでに何度か舞台化されている。8年前、伊武谷万二郎を吉川晃司さんが演じた時は、上川さんは良庵役で出演した。
その舞台と同じ製作スタッフから、「『陽だまりの樹』の脚本を中島かずきさんが担当し、宮田慶子さんが演出する企画が持ち上がっています。今回は、上川さんに良庵ではなく、伊武谷万二郎役をお願いしたいのですが」というオファーがあった。今から3年ほど前のことである。
「同じ原作で、脚本が変わって、演者が変わる。そうなった時に、あの物語がどうなるのだろうという好奇心が、大きく頭をもたげました。ですから、このお仕事をお引き受けした理由が“好奇心”であることは、間違いのないところです。ただ、ある作品に携わろうと決意するモチベーションが何であるかは、作品ごとに違います」
その“違い”の断片だけでも知りたいと思い、「とはいえ、“似たタイプの役が続かないように”など、多少普段から心掛けていることはあるのでは?」と訊ねると、上川さんは少し驚いたように目を見開いて、「まさしくその言葉を、二十数年前にご一緒させていただいた仲代達矢さんからいただいたことがあります」と言った。