今年の憲法記念日も改憲派と護憲派が、それぞれの主張をアピールする集会を全国各地で開いた。「憲法を変えたからといってどうにもならない」と早稲田大学の池田清彦教授は指摘する。

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 政治家が国民の安全のため、健康のため、幸福のため、環境を良くするため、といった美辞麗句を連ねて、新しい制度を作ろうとか制度を変えようとか言い出した時は、とりあえず眉に唾をつけて聞いた方がよい。十中八九はおためごかしに決まっているからだ。

 1000兆円もの国の赤字を生み出したのも、年金制度が破綻しそうになっているのも、景気が悪くて税収が足りないのも、大震災の復興が進まないのも、現在の憲法のせいではない。憲法を変えたからと言ってどうにもならない。溺れる者はわらをもつかむ、という諺にある通り、多くの国民は現状を変えるとの威勢のよい甘言にすがりたいのかもしれないが、うっかり飛びつくと悪夢を見ることになると思う。

 いつの時代でも権力者の夢は、国民を意のままにコントロールしたいということに尽きる。他人をコントロールしたいのは、恐らく人間がもつ生得的な性質で、これを変えるのは不可能だ。権力者の独裁を許さないために民主主義があり、ポピュリズムという民主主義に立脚したマジョリティの独裁を許さないために硬性憲法があるのだ。このことは何度強調しても強調し過ぎることはないと思う。

※週刊朝日 2012年6月1日号