1973年のオイルショックのときも、「紙が不足する」といううわさからパニックが起き、トイレットペーパーの無意味な買いだめが生じた。現在のコロナ禍でも、同様の事態となっている。その背景にあるのは、輸送に支えられた都市集住システムと、多数の人間が起こす行動の社会的インパクトである。
■地理学はなぜ役に立つ? 社会の動きを系統立てて学ぶ学問
このような交通のメカニズムや人間の心理・行動を研究するのも、実は地理学の範疇である。「交通地理学」や「行動地理学」などとして系統化されている。地理学は一般に考えられているより遥かに意味が広く、人の社会のあり方を総合的に解明する学問なのである。だから交通インフラが社会に与える影響や、人の心理・行動が社会にもたらすインパクトなども考察する。それらはビジネスパーソンなら、「輸送コストの節減」や「消費者心理」などとして、経験的に理解している人が多いだろう。
地理というと、地形や気候、産地などを覚える学問というイメージがあるが、人の社会に影響を与えるものは、そのような「ハード面」の要因だけではない。信仰や価値観、文化など、「ソフト面」の要素も重要である。例えば、新年を家族と過ごす慣習があると、その時期に「帰省ラッシュ」が生じ、都市・地方の間に大量の人の移動が起きる。それは土産物の需要や旅客の増加など、経済に大きく波及すると共に、今般の新型コロナウイルスのように感染症の伝播を招くこともある。
企業のトップや部門の責任者などは、その種のソフト面要因も計算に入れて、経営戦略を立てていることだろう。そういうとき利用している知識には、実は「地理」や「社会科」として、子どものころに習ったものが少なくないのだ。
テストの後は忘れてしまった……という方が多いかもしれないが、地理学の内容には、ビジネスパーソンの視点で見ると理解でき、役に立つものが実はかなりある。また、系統立った地理学をおさらいすることで、社会経験のなかで蓄えてきた知識を整理することもできる。新型コロナウイルスで世界が混沌としつつある時代だからこそ、もう一度、地理を学んでみてはいかがだろう。