消費増税法案が衆議院でついに審議入りした。野田政権の命運を決する天下分け目の攻防戦の鍵を握るのが、永田町の怪獣「イブキング」である。
衆院消費増税関連特別委員会で消費増税法案の本格審議が始まった5月17日、第1委員室の野党側最前列に陣取った「イブキング」こと自民党の伊吹文明元幹事長(74)は、閣僚や与党の質問者に容赦なくヤジを飛ばした。
約3時間の質疑が終了するや、野田佳彦首相(55)、岡田克也副総理(58)、安住淳財務相(50)、小宮山洋子厚生労働相(63)らが伊吹氏の前に並び、深々と頭を下げていった。その姿はまるで高名な学者に教えを請う生徒たちだ。
衆参ねじれで、消費増税法案の成立には野党の強力が欠かせない。とりわけ、当選9回、約10人の派閥「志師会」会長を務める伊吹氏にへそを曲げられるとおしまい、というのが、野田内閣の置かれた現実だ。
伊吹氏は京都の繊維問屋に生まれ、京都大から旧大蔵省に入省。渡辺美智雄蔵相の秘書官を務めたことが縁で、1983年に衆院旧京都1区で初当選した。以来、労働相や文部科学相、財務相、そして福田康夫政権では自民党幹事長まで務めた大物だ。
「財政や税制、社会保障といった政策面で、彼にかなう政治家は永田町にはいない。能力の高さは誰もが認めている。ただ、皮肉屋で高飛車だから、どこへ行っても煙たがられる。もう少し明るく後輩の世話をしていたら、首相になっていただろうに......」(付き合いの長い自民党議員)
現在の肩書は、特別委の「野党筆頭理事」。現場の指揮官として、野党側を代表して委員会でにらみを利かせる……というより、実質的に自民党全体の指揮権を握っていると言っても過言ではない。
※週刊朝日 2012年6月1日号