「最初から外出をやめようと思っていたわけではありません。ただ、用事がなくてなんとなく引きこもっているうちに感染者が増えてきて、それからは外出が怖くなりました」(女性)
あまりに無気力な自分に驚き知人にメールで相談すると、すぐに電話があった。不安を吐き出したことで少し楽になったという。外出も勧められた。不安はあるが、人が少ない時間帯を狙って散歩するようにしている。
前出の太刀川教授は、行動の自由が制限され、他者との接触が少ない状況におかれると、無気力状態に陥りやすくなると指摘する。刑事施設や閉鎖病棟に長期間収容された者が示す「拘禁反応」に近い状態だ。
「隔離された感染者や濃厚接触者はもちろん、自主的に行動を制限している場合にも起こる可能性があります」(太刀川教授)
上海在住の人材コンサルタント・金鋭(きんえい)さん(53)は3月29日に日本から中国へ帰国、検疫規定に従って、14日間ホテルの一室に隔離された。部屋は小さなシングルルーム。1度だけ、検査のためにホテル1階へ下りたのを除き、部屋から一歩も出られない。1日3度の弁当配布と2度の検温時以外は扉さえ開けられなかった。会うのは防護服とフェイスシールド、マスクに身を包んだ検温担当者だけだ。
「隔離の前半は、自分がおかしくなるんじゃないかという不安がすごく大きかった。眠れない日もありました。後半は体がだるく、食欲が落ちました」
隔離生活中、特に欲したのは人とのつながりだ。家族とは毎日連絡を取ったほか、唯一直に会える検温担当者とも積極的にコミュニケーションを図った。
「毎日、お疲れ様、ありがとうを伝えていました。すると、最初無愛想だった検温官がある日、僕の冗談に笑ってくれた。それが心を楽にしましたね」
金さんにビデオ通話で話を聞いたのは隔離生活も終盤に差し掛かったころ。その表情はことのほか明るかった。
太刀川教授も、不安に対処する処方箋として第一に「人とのつながり」を挙げる。