天皇にメッセージを出してほしいと思っているわけでは決してありません。どんな形であれ、天皇が政府や国会を飛び越えて国民に直接メッセージを出すというのは政治性をはらむものであり、日本国憲法に抵触するリスクは常にあると思っています。
16年のメッセージについても、憲法が禁じた権力の主体に天皇がなっていると『平成の終焉』で書きました。今のような政治不信が渦巻いている中、天皇のメッセージが流れれば、国民と天皇の結びつきは強まり、天皇のカリスマ性が上がることは十分に想像できます。民主主義の原則に照らし合わせれば、それは望ましいことではありません。
上皇が初めてビデオメッセージを出したのは11年3月、東日本大震災の発生5日後でした。憲法上の問題点がほとんど指摘されないまま、天皇は動揺していた国民を感化する大きな影響力をもっていることが証明されました。16年8月のメッセージはこの前例を踏まえたものであり、退位に賛成する圧倒的な民意が作られたのです。
仮に天皇がメッセージを出すとしても、平成の前例とは違う経緯になることは間違いないと思っています。
今回の危機は、東日本大震災より大きいと言えるかもしれません。被害が東日本に限定された震災に比べ、感染は世界中に拡大しつつあるからです。英国やオランダでは、女王や国王がすでにメッセージを出しています。
国内でも、感染は北海道から沖縄までの各地に及んでいます。しかもいつ収束するかが全くわからない。これから一体どうなっていくのかという国民の不安は、日に日に大きくなっています。
そうした中、4月10日に天皇と皇后は、新型コロナウイルス感染症対策専門家会議の尾身茂副座長を赤坂御所に招き、説明を受けました。NHKの「ニュース7」で映像が流れましたが、意外だったのは皇后も一緒に座っていたことです。
天皇と皇后は、尾身副座長から等距離のところに並んで座っていました。その点では対等であり、天皇の横で皇后も真剣な表情で報告を聞いていた。あれは視聴者にとって、かなりのインパクトだったと思います。