たしかにさまざまな作品、どんな役にも不思議なほど自然になじんでいる。

「私は撮影中も完璧にリラックスしているの。ストレスを感じずに、割と楽に演技ができる」

 巨匠ミヒャエル・ハネケから韓国のホン・サンスまで、興味を持った監督と積極的に仕事をする。是枝裕和をはじめ、「日本の監督にも興味津々よ」とエネルギッシュだ。

「世界の暗い状況を思うと心が沈むことはあります。新型コロナウイルスはもちろん、フランスでは格差問題も深刻で無関心ではいられない。でも私は仕事でそれらを忘れようとはしない。幸いパリには音楽や演劇や映画など、仕事で気を紛らわさなくても、いろんな方法があるから」

 美しさの秘訣は?

「だめよ、教えたら秘訣にならないでしょ(笑)。でもひとつだけ。私はお風呂が大好き。それがリラックス法ね。日本には温泉があるじゃない!」

◎「ポルトガル、夏の終わり」
舞台となる世界遺産の町、シントラの美しい風景も見どころ。近日公開

■もう1本おすすめDVD「エル ELLE」

 エレガントで知的。硬質でシニカルなユーモアをまとい、ときに氷のように冷たい。そんなイザベル・ユペールの特性は、監督によってさまざまな表情を見せる。ミア・ハンセン=ラブ監督「未来よ こんにちは」(16年)や、ホン・サンス監督「3人のアンヌ」(12年)のナチュラルさも魅力だが、特異で「怖い」役も実にハマる。その真骨頂が「エル ELLE」(16年)。「氷の微笑」のポール・ヴァーホーヴェン監督によるサスペンスで、ユペールはアカデミー賞主演女優賞にノミネートされた。

 ゲーム会社の社長ミシェル(ユペール)は自宅で覆面の男に襲われる。だが、彼女は警察に通報するでもなく、割れたガラスを淡々と片付けるのみ。翌朝も普段通りに出社し、いつものように部下を厳しく叱責する。そんななか、社内メールにショッキングなCG画像がばらまかれる──。

 普通なら怖じ気づきそうな事態にもまったく屈せず、自力で犯人を突き止めようとするミシェル。いったいこの人は何者なのか? その破壊神の如きキャラクターに否応なしに引き込まれる。随所にひんやりした笑いが盛り込まれているのもたまらない。

◎「エル ELLE」
発売・販売元:ギャガ
価格1143円+税/DVD発売中

(フリーランス記者・中村千晶)

AERA 2020年4月27日号

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