AERAで連載中の「いま観るシネマ」では、毎週、数多く公開されている映画の中から、いま観ておくべき作品の舞台裏を監督や演者に直接インタビューして紹介。「もう1本 おすすめDVD」では、あわせて観て欲しい1本をセレクトしています。
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早朝、ひとけのないプールに現れた女性。周りを気にするでもなく服を脱ぎ、そのまま水に飛び込んだ──。
最新作「ポルトガル、夏の終わり」は、そんなハッとする場面から始まる。女性とはもちろんヒロイン・フランキーを演じるイザベル・ユペール(67)。60代にしてますます輝き、いまや女性の希望の星ともいえる存在だ。
「それはありがとう(笑)。私は年齢を重ねることに戸惑いや迷いを感じたことがないんです。みなさんは『不安だろうな』と想像するようだけど」
ユペール演じる女優フランキーは、夫とポルトガルの世界遺産のシントラの町に休暇にやってくる。彼女は元夫や息子など家族や友人を呼び寄せていた。いったいなぜか。やがて観客はフランキーが死を間近にしていると知る。アイラ・サックス監督はユペールのために物語を書き下ろした。
「シナリオを読んだときはちょっと驚きました。死を扱っているけれどシリアスなだけでなく、一人の女性に近く訪れる死が周囲の人にどういう影響を与えるか、に焦点があたっているから。湖に小石を投げるとさまざまに波紋が生まれるでしょう? この映画はそんなイメージ。死を語りつつ“生”をも語っている点にオリジナリティーがある」
集まった一族はそれぞれに問題を抱えているが、フランキーはおかまいなしに自分の亡き後を考え、人と人をつなげようとする。少々の傲慢さも魅力的なフランキーは、ユペール自身に重なって見える。
「そう見えるのは監督の手腕ね。もちろんフランキーとは『俳優』という共通点があるけれど、優れた監督は俳優が持っている“人間の本質”を引き出してくれる。だから役がリアルに見えるのでしょう。私は役に対していつもほぼ同じ取り組み方をするんです。それは『あまり深く考えない』こと。映画は自発性の芸術だと思っているから、『役を作り込む』よりも、撮影現場でその人物を生きることが大切だと考えています」