このように紆余曲折はあるものの、キャッシュレス決済の広がりとともに日本でも信用スコアは普及していくであろう。そこで懸念されるのは、「バーチャルスラム」と呼ばれる現象である。低い点数を付けられた人々が住まいや仕事など、生活のさまざまな場面で不利益を被ることになり、貧困状態が固定化されることだ。日本でも「バーチャルスラム」の形成はすでに始まりつつある。こうした社会的排除の「進化」への対抗策を私たちは考える必要がある。
稲葉剛(いなば・つよし)
一般社団法人つくろい東京ファンド代表理事、認定NPO法人ビッグイシュー基金共同代表、立教大学客員教授、住まいの貧困に取り組むネットワーク世話人、生活保護問題対策全国会議幹事。1969年、広島市生まれ。東京大学教養学部卒業(専門は東南アジアの地域研究)。在学中から平和運動、外国人労働者支援活動に関わり、94年より東京・新宿を中心に路上生活者支援活動に取り組む。2001年、湯浅誠氏と自立生活サポートセンター・もやい設立(14年まで理事長)。09年、住まいの貧困に取り組むネットワーク設立、住宅政策の転換を求める活動を始める。著書に『貧困の現場から社会を変える』『生活保護から考える』、共編著に『ハウジングファースト』など。