■投資家は3割の損失か
新しく投資を始める層はいいが、既に投資をしていた人は痛い目にあったのではないか。
個人の損失を見るときによく使われるのが「信用評価損益率」というデータだ。信用取引で買った株式の利益や損失の度合いを表す。
岡三証券日本株式戦略グループ長の小川佳紀さんは、こう指摘する。
「データを見ると、最近のピークは3月19日のマイナス31.37%でした。100万円で買った株が31%減の69万円になっているイメージです」
最初に売買した株価から約3割減……08年12月以来、11年3カ月ぶりの低水準だが、コロナショックによる損失かといえば、様相が異なる。
「新型コロナウイルスによる市場暴落で一番損失が大きいのは、1月の日経平均株価2万4千円台の頃に買った人です。その頃に個人が大量参入していたかというと、私の肌感覚ではNOです。1月に新春の株式講演会やセミナーが10回あったのですが、当時は『株価が高すぎるから下がるのを待ってから買いたい』とおっしゃる方が大半でした」(小川さん)
日本人は、株価が安いときに買いたがる「逆張り派」が圧倒的に多い。一方、欧米諸国は株価が上がり続けているときの波に乗って買う「順張り派」が主流だ。
日経平均株価は2月20日の2万3479円から下がり続け、3月19日の1万6552円でいったん底を打った。損失が出ているとしたら、2万円割れの3月上旬に買った投資家が多そうだが、現在は1万9137円(4月22日)まで戻った。
■経済全体は二極化
日本経済全体を見ると、コロナショックによる影響は二極化している。年初と3月末を比較すると、下落率の大きい企業は業種でいうと電気機器、機械、鉄鋼、鉱業などの景気敏感株が目立つ。
ランキングには入っていないが、「各国の金融緩和による超低金利により、金利が下がると利益が出づらい銀行などが不調です」(小川さん)。
苦しい業種の陰で特需も発生している。
医薬品、食料品、小売業、情報・通信業など、景気の影響を受けにくいディフェンシブ業種は絶好調だ。特に抗体・バイオで先行する中外製薬や冷凍食品のニチレイなどの株価は右肩上がり。この時期に株を買って成功したのは、「どんな企業がコロナの影響を受けず、好調が持続するか」に関して正しい予測ができた人だ。コロナ禍での生活も投資も、常に冷静な判断ができる人がリスクに勝つという点は共通している。
前出のトウシル編集長・武田さんは、こうも言う。
「これから経済はどうなるのか、今は本当に買い場なのかという記事へのアクセス数も上がっている。投資家の不安心理が感じられる」
ネット証券の口座開設急増には、もともと存在していた老後不安に加え、先行き不透明な現状への不安が表れている。(経済ジャーナリスト・向井翔太、編集部・中島晶子)
※AERA 2020年5月4日号-11日号
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