財政赤字や高い自殺率など不安要素があふれている現代でよく謳われる「希望」。とくに東日本大震災が起きてから、その言葉は新聞でもよく使われてきた。しかし、政治家がいう「希望」には気をつけるべきと、『希望のつくり方』の著者で東京大学社会科学研究所教授の玄田有史氏は警告する。
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 政治家は希望という言葉が好きだ。「希望と安心の国づくり」なんてキャッチコピーをよく使う。しかし、われわれが「この政治家ならなんとかしてくれる」とか、「この政治家を信じれば希望は訪れる」とかいった考えを持つのは非常に怖い。
 なぜなら希望は与えられるものではなく、自分たちの手で見つけるものだから。挫折したり、無駄な経験をする紆余曲折の中で、希望を紡いでいく物語を、本来は一人ひとりが持っている。挫折や無駄を乗り越えた先にこそ、希望はある。
 改めて言うが、誰かに希望を与えてもらうのを望むような風潮に、私は怖さを感じている。混沌の時代の政治には、ヒーロー待望論が出てくるものだ。「20世紀最大の希望の政治家は誰か」と問われれば、私は間違いなくアドルフ・ヒトラーと答えるだろう。彼のように「希望と安心の国づくり」を謳う政治家は要注意だ。

※週刊朝日 2012年5月18日号